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2018年3月

2018年3月22日 (木)

4-4.新人の採用

社員も参加する採用活動・人間性尊重の経営

  「社員の社員のためのルール、常に既成概念を破ろう、組織図がない、安楽椅子がない、重役は投票で決めよう、全員参画、多数決はしない、売り上げを伸ばせとは言わない、駐車場に線を引かない、共に育つ教育制度、やる気のない人は幸せにできない」

  これはネッツトヨタ南国を創業して間もない頃に、横田社長(当時)が学生募集用のパンフレットに書いたコピーである。人間性尊重の経営は20年前から始まっていた。 

 新人の採用では、入社前に最低30時間(2005年当時)10回の面談を実施して、その過程で会社の理念や方針を理解してもらい、何のためにここで働くのかを納得してもらう。その過程で、働く目的がお金や地位のためではなく、お客さまを喜ばせることが自分の悦びになると気づかせる。

 そして現在では、一人当たり200時間(2011年)を面接に使い、価値観が共有できるかを確認しあう。採用業務も進化・カイゼンしている。そして複数の先輩社員と語り合う時間をとり、お互いの理解を深めていく。採用の最終決定も経営者は関わらない。社員全員で一人を採用し、育てていく体制である。

 

「修身」の講座

 下記は私が新人教育講座で、新入社員を相手に講義をした「修身」の一部である。私が新人に伝えたかったことは、ネッツトヨタ南国が新人に伝えていることと同じである。普遍的な労働に関する考え方である。しかしこの講座は、前職の会社がエゲツナイ会社に吸収併された後は、その会社の拝金主義の上司に講義を禁止された。「仕事に関係ないことは、(無駄だから)教えるな」であった。

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__o_0508291_2  新人教育講座「修身」より 小田

 どんな組織でも、「人の育成は大事である」とトップは言う。しかし、ドラッカーが慧眼したように、これを実践している企業は稀である。企業が業績不振になると、真っ先に削減されるのが、教育費である。私も会社生活38年を通して人材育成にも携わった。その中で、会社の欺瞞を一番感じたのが、会社の人の育成への姿勢である。「教育は大事」と建前でいいながら、業績が悪くなると真っ先に削減されるのが教育費であった。本来は不況の時こそ、人に投資をして好況になったらダッシュして儲ける、が智慧ある経営である。凡人の経営者はその逆をやっている。

 エセ経営者の教育重視宣言が笑わせる。仏様の差配で前職の会社は創業65年で吸収合併されて消えた。合併後10年余経っても、エゲツナイ会社が経営しているためか株価は低迷している。同系列のグループ会社等が躍進している状況に比べて情けない。これは当然の結果と私は思う。この点で、ネッツトヨタ南国の経営に、ホンモノの経営を見た「いい仕事をしていますねぇ~」と言いたい。

2018-03-22

久志能幾研究所 小田泰仙  e-mail :  yukio.oda.ii@go4.enjoy.ne.jp

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2018年3月21日 (水)

4-3.ブランド戦略

 ネッツトヨタ南国の販売価格は、値引きなしの定価販売である。近くにはもっと安価で提供するトヨタ系のディーラーも店を構える。ネッツトヨタ南国の近辺は、10社以上の同業者がひしめき合う激戦区である。それでもネッツトヨタ南国では車が売れしまう。結果として「厚利多売」である。

 ネッツトヨタ南国は「接客」というカテゴリーで、ブランドを確立している。ブランドロイヤリティにハマった顧客は、値段ではなく、ネッツトヨタ南国のブランドで購入する。車を買う場合、値段だけで購入を決める人はほとんどいない。値段で車を買う人は、価値観がお金となっていて、そんな客を相手しても、自分達のディスカウント(自分の安売り)となり、お互いが幸せになれない。

 

天使のサイクル・悪魔のサイクル

 現代はデフレの影響もあり薄利多売のお店が増えている。しかし、ネッツトヨタ南国は値引きをしない販売戦略である。それでも多くに顧客が殺到するため、厚利多売である。儲かってしかたがない。利益は後から慌てて追いかけてきたのだ。拝金主義者でないネッツトヨタ南国は、その儲かった資源をお客様と自己の教育に振り向ける。それがブランドをさらに高める結果となっている。ますます儲かるプラスの天使のスパイラルとなっている。

 拝金主義者の経営者は、成果主義を推進し、教育費を削減し、社員を追い詰める。社員がやる気を無くし、自分の立場を失うのを恐れ、ノウハウを部下に教えず、全体として、売上げが下がっていく悪魔のサイクルに陥っていく。

 

人生のディスカウント(自分の安売り)

 自分の人生を安モノ買いで、安さだけを追及すると、自分の人生も安物の人生になってしまう。安いものにはワケがある。それが伝染して、自分の生き方が安っぽくなってしまう。お金をケチッて貯めた金は、あの世には持っていけない。それでは人生の勝利者にはなれない。惨めな終末を迎えるのがオチである。

 正しくお金を払えば、良きご縁との出逢える。値切らないとは、売る相手と相手の仕事を尊重している意思表示である。そうすれば相手も相応の対応をしてくれる。少なくとも悪い縁者とは、付き合う危険性が少なくなる。

 私がモノを買う時、負けろと言ったためしはない。買う店も買う店員も決めているので、相手が勝手に値引きをしてくれる。結局はそれがお得である。相手に値引きをさせる交渉時間にも、時間とお金がかかっている。自分の命を無駄に削っているのだ。命とは、自分が使える有限の時間なのだ。それに早く気付くべきである。

 

2018-03-21

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4.人財育成戦略

4-1.ネッツトヨタ南国の競争優位性

 企業の競争優位性とは、ドメインの決定と資源展開で競争者に対して築く独自性である。競争優位性の源泉であるコアコンピタンスとは、経営資源を組み合わせて、企業の独自性を生み出す組織力である。コアコンピタンスは、長期間の継続的改善で構築される。

 要件 ①多くの市場へ展開性を生み出す要素

    ②最終製品が特定顧客に貢献する要素

    ③競合他社にとって模倣困難性の要素

                  

 ネッツトヨタ南国のコアコンピタンスは、他社にない顧客サービスを提供する人財が主体である。一般的な自動車販売店にとって、他の販売店とそんなに設備で優位性や差別化を取れるわけではない。商品はカーメーカから提供されて独自性は生み出せない。新車を売ってもその利益は多くない。最近の経営の優れた自動車販売店は新車が売れなくとも、利益が出る体質に改革している。そのために、濃厚なせービスをする優秀な人財を育てれば、継続的に顧客に差別的(模倣困難性)のサービスを提供できる。それは下記要件を満足する。

①様々な市場へ参入できる。

②高級ホテル並みの顧客サービス(商品)が顧客に貢献できる。

③長年育成された人財教育システムには模倣困難性がある。

 

 この競争優位性は人財の育成が基本となっている。そしてネッツトヨタ南国では新人の採用の段階からその取り組みがスタートしている。その取り組みは、他社から見れば隔絶した世界である。私が入社試験を受けても、とても採用されそうもない。競争倍率150倍。

 

4-2.良い会社作りの仕掛け

 ネッツトヨタ南国は、目的を達成するため、現在の問題を先送りせず、「あるべき姿」=needs に目を向けた企業風土改革に取り組くんだ。下図のwantsでの×印を全面否定して、それ以外は受け入れる企業風土を育てた。

 

  wants → needs

    量  ←→  質

    目標  ←→ 目的

    対処  ←→ 解決

    感情  ←→ 理性

    結果  ←→ プロセス

    効率  ←→ 効果

   ×平等  ←→ 公平

    近道  ←→ 回り道

   ×同僚が敵←→ 自分が敵(ライバル)

   ×反応  ←→ 主体

 

 ネッツトヨタ南国は、入社した全員が「このネッツトヨタ南国で働けてよかった」と思える会社になるように、人財戦略(=経営戦略)を練り上げた。戦略とは、勝つために「何をやらないか」という「戦い」を「略す」る行動である。

 

良い会社にする仕組み

 良い会社とは、社員満足度、顧客満足度、社会貢献度、継続的成長が良い

   ↑

 就職人気企業№1とは人財育成力が抜群

 就職人気企業№1=人間性尊重(自己実現を目指す)

            ↑

            ↓

          動機(やる気)= 目的の明確化。好きなる。

            ↑

  全員参画、重要な仕事を担当、自主性の尊重、創造的に対応、結果の明確な評価、継続的な挑戦

 

経営戦略の中心は人財作り。そのために何をやらないか

 経営戦略 = 人財戦略(文化レベル向上・風土つくり)

  そのために、組織図を作らない。上位下達をしない。多数決をしない。真似をしない。プロに頼らない。マニュアルを作らない。失敗をとがめない。できない理由を考えない。

 

2018-03-21

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2018年3月20日 (火)

ネッツトヨタ南国の概要

1-1. ネッツトヨタ南国の会社概要

  ネッツトヨタ南国は、大企業によく見られる、管理を強化した経営環境ではなく、社員の自主性を重んじる経営スタイルで、働く人が最高のやりがいを与える企業風土を育てている。「社員が仕事に満足していない会社は存在価値がない」と言い切り、社員一人ひとりが自ら考え行動する自主自立型組織を目指している。そして、トヨタ販売会社300社中で、13年連続顧客満足No.1の座を獲得している。(2015年現在)

 結果としてデフレで車の販売が低下する中、他社の販売会社が数十%の売上げダウンや廃業も頻発する厳しい状況にも関わらず、またリーマンショックも乗り越え、10年前に比べて2倍の売上高を達成している。

 講演依頼は数多く、2006年11月22日、第41回グローバルトヨタTQM大会(名古屋国際会議場センチュリーホール)では、創業社長である横田社長(当時)が『ESとCS 人間性尊重の組織づくり』というテーマで講演をされた。

 

1-2.株式会社ビスタワークス研究所の概要

 設立: 2007 年にネッツトヨタ南国の社内カンパニーとして設立。

    2010 年10 月法人化

 従業員:8 名 

 代表取締役社長:大原光秦(2011年当時)

 所在地: 高知市南川添4-28(ネッツトヨタ南国内)

 

特 徴:

「人の幸せ」を実現する組織・人財開発のあり方について、中学生向けのキャリア研修から経営者を対象とするリーダーシップ研修まで幅広い対象に向けた学習プログラムを独自に開発し、知財を提供している。

地域の未来づくりをビジョンに掲げ、県外企業等組織向けのコンサルテーションを行う。

高知県内の中学、高校、大学等における講師活動や、地域全体に向けたインターンシップ推進活動、学校教員の長期社会体験研修の受け入れなど、教育界と連携して活動している。

南国土佐の暮らしや働き方、その思いを紹介する動画サイト「南国生活ドットコム」をプロデュースしている。

学生や企業がキャリア教育情報を共有するための「まなともネット」などのウェブサイト運営、各種デジタルコンテンツを製作している。

 

1-3.現社長(2011年当時)大原光秦氏

 「全従業員を人生の勝利者とする」という経営理念を実践するネッツトヨタ南国において、人財開発(採用/ 教育/ プロジェクトマネジメント)責任者として20 年以上携わる。同社の日本経営品質賞受賞(2002 年)時にはアセスメント推進総指揮を務めた。「人間的成長」を支援する組織づくりを心理学や脳科学、人類社会学等の諸理論から検証、他の組織にも応用・展開しやすいよう、独自の理論を構築している。論理的で明快、さらに映像等を多用して臨場感溢れる講話スタイルが評価され、企業に限らず行政や学校など、組織形態を問わず講演や研修などの依頼が数多く寄せられる。現在では年間300 回を超える研修・講師を務めている。現在44歳(2011年)の若さ溢れる新社長である。それも、社員達の互選で選ばれた社長である。

 

1-4.大原光秦氏は一億円のプレゼンテイター

 大原光秦の講演料は50万円。年間300回講演をして、1億5千万円の利益を会社にもたらす。カリマス的な一億円プレゼンテイターの講演を聴けば、その話し方手法、経営手法の一部でも盗み取って、自分のプレゼン、部下への指導方法、自社の組織改革に応用するのも勉強になる。年間300回の講演依頼がある事実には、それ相応の内容があるからだ。また、人をモチベートして、やる気にさせる手法を研究するにもよきお手本である。ゆとり教育の弊害で、若い人の気概の低下を嘆く風潮があるが、成長する環境と正しい指導をすれば、いかに大きな成果を生むかの実例を確認できる。人は素晴らしい資質を持っている。今はそれが発揮されていないだけである。全ての責任は経営者にある。

 驚くべきは、社長が年間300回も講演で出歩いて社内に不在でも、社内は13年連続顧客満足№1を継続・発展する自立型組織になっていることだ。

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 2011年5月12日 岐阜「じゅうろくプラザ」での講演会で

2018-03-20

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カテゴリー「ネッツトヨタ南国の経営」を追加

 私はネッツトヨタ南国の大原光泰社長(2011年当時)の講演を聞いて、この会社の経営に興味を持ち、色々と調査をしてまとめたのが今回の記事です。 P1_ 2018-03-20

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2018年3月19日 (月)

高松国際ピアノコンクール「ピアノは簡単」5/5

ピアノを弾くのは簡単?

 一次予選参加者の41人のピアノ演奏を会場の最前列席で3日間、17時間も連続で聞いて、ピアノを弾くのは簡単だと悟った(?)。だって若い人たちの41人全員がやすやすと難しい曲を暗譜で弾いているのだ。ピアノを弾くのは一人の特殊な天才だけではなかったのだ。

そのためには、毎日3時間、10年間、1万時間をかければ、世界一にはなれないかもしれないが、コンサートレベルには誰でも弾けるようになる。だから私はそんなには練習をしてこなかったので、弾けないのだ(笑)。それだけである。

 

一万時間の法則

 マルコム・グラッドウェルが著書の中で「一万時間の法則」を紹介している。どんな分野でも、約一万時間を継続してその分野に取り組んだ人は、その分野のエキスパートになるという経験則である。

 ある音楽学校で、コンサートを開けるプロレベルと、レッスンを与えるレベルの人などを比較して、過去の累積練習時間での有意差を調べたら、コンサートのプロレベルでは1万時間だった。

 一万時間は、一日3時間を10年間継続する練習量である。人が通常「才能」と片付けている差異は、実際には継続の練習時間に起因する。

 

玉田裕人氏ピアノリサイタル

 2018年3月18日、名古屋「しらかわホール」にて玉田裕人さんのピアノリサイタルを聴いた。3月3日にヤマハサロンで玉田裕人さんのピアノリサイタルを拝聴と写真撮影をしたので、演奏会後のロビーで彼に挨拶をしようとしたら、彼の前には若い女性達の長蛇の列である。私は挨拶を諦めて帰宅した。ハンサムで若いピアニストはモテるのです。若い女性達にモテたかったら、一万時間のピアノ修行をすればよいのだ。ただし、それはその道の門をくぐっただけで、本物になるには更なる修行が生涯必要だ。多くの人は、その狭き門さえ通れずに、広き門に引き返す。

 玉田裕人さんは、舞台上の終わりの挨拶で「ピアニストの生活は、アスリートのようです」と言った。その言葉が印象に残った。そう、ピアニストに限らず、その道を極める人は、アスリートのように己の生活を律しないと、道は開けない。単にテクニックだけを磨けばよいだけではない。ピアノに限らず、自分の歩く道には、1万時間の練習・修行に取り組み、それを天命として生涯で取り組みたい。

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 若い女性ファンが多い!

 2018318日、名古屋「しらかわホール」にて

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2018-03-19

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高松国際ピアノコンクール「ピアノ三昧」4/5

 当初、このコンクールに行くことを勧められた理由が、同じ課題曲を違ったピアノで入れ代わり立ち代わりに参加者が弾くので、ピアノの違いが良くわかるとの説明であった。ところが、同じ課題曲でも、巻数、番数が違うと曲の傾向は同じだが、全く同じではないので、素人の私には判別が難しかった。それは想定外であった。3日間、世界レベルの演奏を聴いて、別の意味で大きな学びを得た。

 

課題曲のバラエティさ

 高松国際ピアノコンクールの第一次予選の課題曲は、下記の3つである。

 (A)バッハ平均律Ⅰ、Ⅱ巻より1曲

 (B)ショパン練習曲作品10または作品25より1曲

 (C)1900年以降に作曲された作品

 同じ曲を演奏して、ピアノの音質の比較ができるかと思ったら、バッハ平均律Ⅰ巻だけでも24番もあり、予選参加者が色んな選択をして、同じ曲の演奏でのピアノ音色比較は無理であった。「同じ曲の演奏なら、学芸会になってしまう」と言われて、納得した。

 

各ピアノの音色の違い

 どれが絶対的に正しいピアノの音とは誰にも言えないので、コンクールで一番多く使われているスタンウェイの音を基準に、他のピアノが私の耳にどう響いたかを判定した。

 スタンウェイのピアノは、一次予選で41名中23人(56%)が選択した高い選定率であった。二次予選で50%、三次予選で60%である。圧倒的にコンクールでは、スタンウェイが基準となるようだ。

  カワイの音色は、派手というか、明るい音と感じた。コンクール用の戦闘的な音作りと感じた。そのためか、一次予選で41名中10人(25%)の第二位の選定率であった。二次予選で30%、三次予選で20%である。

  ヤマハCFXの音色は、重厚で深みがあると感じた。おとなしい感じで、押しが強くない感じである。そのせいか、一次予選で41名中3人(7%)の選定率でしかなく驚いた。二次予選で15%、三次予選で20%である。三次予選でカワイと並んだ。

  ベーゼンドルファー280VCの音色は、優しい音である。コンクールでの争いごとには似合わないようだ。満を期して新しい音作りの製品で挑戦したが、一次予選で5%(2人)にしか選定されず、二次予選で一人になり、三次予選で消えた。

 この種のコンクールに出ると、メーカには膨大な費用負担がかかる。ベーゼンドルファーは零細企業(?)(ヤマハの100分の1の企業規模)では、ショパンコンクールのような国際コンクールに出場は無理と聞いていたので、今回の高松国際ピアノコンクールにベーゼンドルファーが出てきたので、内心驚いた。

 

ベーゼンドルファーimperial

 2018年3月18日、名古屋「しらかわホール」にて玉田裕人さんのピアノリサイタルを聴いた。その機種はベーゼンドルファーimperialである。280VCは箱全体が鳴るベーゼンドルファー独特の構造に、より早い立ち上がりの構造を付加にした新型である。Imperialはベーゼンドルファー本来の音で、優雅な調べで、乱打強打激打が連続のコンクール用課題曲の音には、似合わない趣きである。他社のピアノと比較すると、まるでF1レースのフォーミュラカーと比較勝負をするような趣で、比較すること自体が間違っていると感じた。もともとベーゼンドルファーはサロンで静かに聴くピアノである。

 その昔、仕事でホンダの総アルミ製のスポーツカーNSXをモニターとして試乗したことを思い出した。NSXは、性能は確かに素晴らしいが、街中で乗るには、背は低いため、乗り込みにくいし視線も低いため回りの状況が見にくい。ギアチェンジも難しいし、乗りこなしが難しい。カッコよく高性能なのだが、欲しいとは思わなかった。この車はサーキットや高速道路でなら、映える車である。それと同じことが、コンサート用のピアノにも言えそうだ。コンサート用ピアノにも、演奏する曲にあった最適の機種や演奏会場がありそうである。

8p1100154 2018年3月18日、名古屋「しらかわホール」で

 

音楽は何のため?

 今回のコンクールで一番驚いたのは、ロシアのタチアナ・ドロホヴァが弾いた「戦争ソナタ」の曲で、爆弾が連続的に爆発するような激しい曲で、その弾き方に神業を感じたて、ピアノ技法を誇るには最適かもしれないが、音を楽しむには道を外れていると感じた。しかし、こんな激しいレベルの曲を連続して何人もの競技者達に弾かれたら、ピアノの弦も切れてしまう。私なら間違っても「戦争ソナタ」のCDを買う気にはなれないし、自宅で聞きたいとも思わない。趣味で癒しのために聞く音楽は、闘いのために聞く音ではないのだ。

 

2018-03-19

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2018年3月18日 (日)

高松国際ピアノコンクール「天国と地獄」3/5

演奏者の天国と地獄

 至近距離から演奏者41人のピアノ演奏の姿勢を観察して、興味深かった。悲壮感丸出しで演奏する人、楽しそうに体を揺らして演奏する人、苦難と格闘するが如くピアノを弾き続ける人、様々である。人生の晴れ舞台で、今までの練習を自分で褒めてやりながら演奏する人には、天国であり、練習不足で不安に満ちて弾く人には地獄であったろう。それでも私のような素人から見て、破綻のある演奏をした参加者はいなかった。

 この日のために何千時間もかけて己を成長させてきた強者たちである。世界の中から選ばれた人たちである。この演奏会を天国と思うか、地獄と思うかが、その人の人生観だ。携帯電話の11桁が覚えられない私から見て驚嘆すべきは、一次予選では25分間の暗譜、二次予選では45分間の暗譜でピアノ演奏をやすやすとこなす能力を身に付けた強者たちなのだ。

 

智慧を得るための経験として

 今までの多大な練習を自分に課してきたこと思えば、どんな状況でも自分で試練を切り開いていく自信ができたはずだ。これからの人生で直面する事態はもっとすごい事態があるはず。もっと肩の力を抜いて楽しくニコニコ顔の死に物狂いで頑張って欲しい。

 私も今までの人生を振り返り、コンクールの様な試練や試験でも、もっと力を抜いて、良き経験を積める機会だと思って取り組めばよかったと反省している。競走馬にように、横が見えない遮蔽物を目に付けてピアノ専門バカとして生きるのではなく、回りの人生の風景を楽しみながら、人生を送って欲しい。

 

好々爺の天国と地獄

 初日と2日目に、私の後ろの席に人の好さそうな老人が座っていた。その御仁がこともあろうに、2日目の途中から、演奏中に居眠りを始め、いびきをかき出したのだ。気持ちよい音楽を安い入場料で聞けて、もて余す時間をつぶしには天国の会場であったのだろう。私は筆記具で、膝をつっついたが目を覚まさない。演奏が終わってから幕間に、私と私の隣人が、怒り心頭で、私とその好々爺に噛みついた。その御仁はハトが豆鉄砲を食らったように、茫然としていた。3人の演奏が終わった後の休息時間中に、バツが悪く感じたのか、別の席に消えた。その人は、天国から地獄に落ちたのだ。

 一次審査は3曲を20~25分間で弾くので、聴くほうはそんなに飽きない。しかし、二次審査になると45分間の連続演奏なので、睡魔に襲われ、回りで寝ている人が多かったとは、次の日に参加した知人からのお話しであった。

 聞くほうは天国でも、演奏者は自分の人生がかかった大事なコンクールである。相手の身になって演奏を聴いてあげたいもの。

 

スィーツ天国から地獄に堕ちる

 会場は飲食物持ち込み禁止である。初日は、休息時間にロビーで販売していたコーヒーとスィーツを食したが、そのスィーツの全種類が、私が食べてはいけない禁止食材が入った種類ばかりであった。マーガリン、バター、ショートニング、植物油、砂糖の入ったお菓子や菓子パンばかりである。またそのお菓子の一つが300カロリー以上の栄養価があり、肥満への地獄便スィーツである。美味しいものには毒がある。食べれば天国の心地であるが、後年に病気という地獄の縁を頂く。主催者も、そういう面での気配りをして欲しいもの。せめてスィーツには和菓子を用意して欲しい。私は苦しい選択をして200カロリーの焼き菓子を選択して、何とかしのいだ。2日目以降は、戒めを思い出して絶飲食にした。

 2017年4月にウィーン市街を散策したが、音楽の都にはカフェが多くあり、コーヒーとスィーツが溢れていた。ピアノ演奏とスィーツはよく合う。これを見逃すほど聖人でない私は、我慢できず、手を出した。これが美味しいんです。ウィーンに10日間滞在して、帰国後、真島消化器クリニック(久留米市)で血管内部のプラークの厚み検査を受けたら、てきめんに検査結果が悪くなっていた。現地で油分と糖分の取り過ぎが原因であった。

 西洋人は若い時はスマートで美しいが、音楽に酔い痴れて、甘いものを取り過ぎ、肥満の地獄に堕ちる。地獄の最終地は心臓病、心筋梗塞、脳梗塞、ガン、認知症である。ご用心ご用心。

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 ウィーンのカフェにて 2017‎年‎4‎月‎18‎日

 

糖質と甘味は中毒になる

 人間や動物は「快感」を求めることが行動の重要な動機になる。このような快感が生じる仕組みは脳内にあり「脳内報酬系」と呼ばれている。脳内報酬系は、人や動物の脳において欲求が満たされたときや満たされる予想がされたときに活性化する。A10神経系(中脳皮質ドーパミン作動性神経系)と呼ばれる神経系が脳の快楽を誘導する「脳内報酬系」の経路として知られている。

 動物実験などで糖質も甘味も薬物依存と同じ作用があることが判明している。快感を求めて甘味や糖質の摂取を求め、次第に摂取量が増え、摂取しないと禁断症状が出てくる。ラットの実験では、コカインよりも甘味の方がより脳内報酬系を刺激する結果となる。つまり甘味はコカインよりも中毒(依存性)になりやすい。砂糖の多い食品や飲料の過剰摂取は甘味による快感によって引き起こされ、薬物依存との共通性がある。

 ラットやヒトを含めて多くの動物では、甘味に対する味覚受容体は砂糖の少ない太古の時代の環境で進化したため、高濃度の甘味物質に対しては適応できていない。現代社会の砂糖が過剰なスィーツ類で味覚受容体が過剰に刺激されると、脳において過剰な報酬シグナルとなるので、自制のメカニズムを超えてしまい中毒になる。

 銀座東京クリニック 院長の福田 一典氏のHPより編集

 http://www.daiwa-pharm.com/info/fukuda/7388/

2018-03-18

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高松国際ピアノコンクール「天国と地獄」2/5

ピアノの天国と地獄

 課題曲の「火の鳥」、「戦争ソナタ」、ショパンの練習曲などは、ハンマーの乱打激打の様で、ピアノを壊すための曲ではないかと思うくらいの激しい曲だ。あるピアニストは拳で鍵盤を叩いていた。私のピアノの練習での負荷量の千倍も1万倍もピアノをいじめている。ピアノにとっては、地獄の試練である。その為だと思うが、一次審査2日目のお昼前にカワイのピアノの弦が切れたみたいで、お昼の休息中に弦を張り直すのに、小宮山調律師が汗を流していた。流れるような静かで美しい曲をピアノの達人が弾いてくれて、聴衆を魅了する時は天国だが、コンクール用の激しい曲で技を競う時は、天国と地獄の両方をピアノは味わう。

 演奏中にピアノの弦が切れるのは名誉なことだと思う。それくらい激しい弾き方が続く。その激しい弾き方をする人が、一人ではないのだ。多くの演奏者に選ばれて、また演奏者が全体力を使って弾かれないと、弦は切れない。出番の少ないピアノでは、弦は切れないのだ。弦が切れてしまっては地獄であるが、一つの名誉ではある。疲労破壊であり、ある意味、過労死である。弦の戦死、殉職である。

 

ピアノメーカの天国と地獄

 ピアノメーカとしてフラグシップのピアノを持ち込んでコンクールに臨んでも、演奏者に選定してもらえないと、舞台上で、蓋をして鎮座しているだけになる。窓際族に落ちぶれる。世界一のピアノメーカの自負があっても、出番が少ないと、惨めである。コンクールでのピアノの出番数が、評価で天国と地獄を分ける。ピアノメーカにとっては、針の筵に座らされている趣である。ちなみにヤマハさんのピアノの生産量はスタンウェイの10倍である。ベーゼンドルファーはスタンウェイの10分の1である。ベーゼンドルファーが満を期して持ち込んだ280VCは、一次審査で2人にしか選定してもらえなかった。二次審査では1人になってしまった。ショパンコンクールでは、実質的にスタンウェイを凌駕したヤマハであるが、今回の高松でのコンクールでは、スタンウェイとカワイさんに惨敗である。

 

 一次予選41人中でのピアノの選定数は、スタンウェイ23、カワイ12、ヤマハ3、ベーゼンドルファー2である。 

 二次予選20人中でのピアノの選定数は、スタンウェイ10、カワイ6、ヤマハ3、ベーゼンドルファー1である。 

 

調律師の天国と地獄

 激しい課題曲の連続で、ピアノの調律が狂い、その対応で調律師は大変である。各メーカが控えているので、調律の時間も制限がある。昼間はその時間内で調律を終えねばならぬ。2日目にカワイのピアノの弦が切れたようで、小宮山さんが弦を張り直すのに汗だくになっていた。お陰で(?)私もそれを見ていて昼飯を食いそこなった。それは良きご縁との出会いでした。しかし調律師には地獄である。それでも自分が調律したピアノを多くの演奏者に弾いてもらえるのは天国に昇る気分であろう。仕事の報酬は仕事である。選定されないと地獄に落ちる思いであろう。

 3日目のお昼の調律時間にスタンウェイの調律師が、制限時間25分を15秒だけ超過して調律を終えた。素晴らしい時間管理体制である。その後、すぐスタンウェイのピアノが移動され、今度はカワイのピアノが舞台中央に出されて、小宮山調律師が調律に取っかった。お昼のコンクールが終わって観客がいなくなってから、また各メーカの調律師の仕事が深夜まで続くので大変である。海外のコンクールでは、調律師にさらに多くの負荷がかかる。

 

調律師の美学

 調律が終わった後、各メーカの調律師たちは2人、3人かかりで何度も何度もピアノを布で愛おしむように磨いていた。それはカワイもスタンウェイのピアノ調律師も同じである。本番の晴れ舞台で頑張れと励ましているようであった。

 弦を張り直し、調律を終えてから、小宮山調律師は、ピアノの下にもぐり総重量500キロのピアノを背中で支え、少し持ち上げてピアノキャスタの向きを角度で3度ほど修正した。ピアノの前脚のキャスタは45度方向の「ハの字」型に向けるのが正規のようだ。それを角度にしてたった3°ほど変えたのだ。されど3度の角度修正である。それで音が変るのだろうか。調律師のこだわりと美学である。良きものを見させて頂いた。

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 2018‎年‎3‎月‎15‎日、‏‎13:58 お昼の休憩時間中の調律

 

2018-03-18

久志能幾研究所 小田泰仙  e-mail :  yukio.oda.ii@go4.enjoy.ne.jp

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2018年3月17日 (土)

高松国際ピアノコンクール「天国と地獄」1/5

「第4回高松国際ピアノコンクール」とのご縁

 201833日、名古屋ヤマハのサロンでの玉田裕人さんのピアノコンサートに出かけたら、自宅のピアノの調律をしてもらっている調律師から、「第4回高松国際ピアノコンクール」を紹介された。この種のコンクールでは、同じ課題曲で、演奏者によってピアノを取り換え引っかえ演奏するので、各メーカのピアノの音色や音質を実際に比較確認するには、絶好の機会だという。この種のコンクールは、浜松と仙台でも国際コンクールがあるが、たまたま10日後に、香川県高松市で開催の「第4回高松国際ピアノコンクール」のパンフレットがヤマハの会場に置いてあった。高松市は4年ごとの開催、浜松市と仙台市のコンクールは3年毎である。これを逃すと4年後なので、これもご縁だと思って即、行くことを決めた。大垣から高松は、日帰りでは無理なので、313日に前泊して、14日から16日までの3日間の一次予選を全て鑑賞する計画とした。

1p1100125  サンポートホール高松。  のっぽのビルの右横がホール棟

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当日の地獄と極楽

 会場は、高松駅の目の前にあるサンポートホール高松である。高松は新幹線岡山駅で乗り換えてから、予讃線の快速電車で瀬戸大橋を渡って1時間である。サンポートホール高松は、収容人員1500名の立派で快適なホールである。コンクールの予選は46名がノミネート、当日5名が辞退である。一人2025分間、3曲の課題曲を演奏して、連続で3人が演奏して、20分の休憩のパターンである。それが朝10時開場、1030からコンクールが開始され、それが夜7時まで続く。

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 出場者達のパネル(ホール内で)

 

 第一日目は、20分間の休憩中にコーヒーとスィーツを取ってのんびりと構えていた。しかしコーヒーには利尿作用があり、どうしても1時間30分間の連続競技演奏中の我慢が辛くなったので、2日目以降は、絶飲食にした。競技演奏中は途中退室厳禁である。

 一日目は、昼食もとって余裕をもって臨んでいたが、2日目の昼食休憩中に、河合楽器の調律師小宮山淳氏の姿を発見し、彼が調律を始めたので、思わず見入ってしまい、昼食を食べ損なった。小宮山淳氏の姿は、NHKビデオ『ショパンコンクール もう一つの闘い』で何度も見ていて、私にとっては超有名人で、他人とは思えなかったからだ。ちょっとの合間を見つけて名刺交換をさせて頂いた。

 それに味をしめて(?)、3日目も昼食休憩時間中の調律を観察したので、残り2日間は、会場では9時間の絶飲食の状態であった。これは、地獄である。

 私が会場で陣取った席は、最前列席のピアノから45度右後ろ方向約5mの位置である。最前列席に陣取ったのは私を含めて2名のみ。この場所からは、演奏者の顔の表情と演奏中の手の動きが良く見え、ピアノの音もダイレクトに観客席に伝わってくる。この状態で、一次予選出場者41名の演奏の全て、計17時間(25分×41人)+調律の2時間(30分×2回×2日)を3日間連続で聴いた。各予選出場者は、この日のために何千時間も練習を積んできた猛者ばかりである。演奏が素晴らしくないはずがない。その素晴らしいピアノ演奏を目の前からシャワーのように浴びるのは極楽である。それも3日間通しチケットで、2,000円の安さである。交通費と宿泊費が別に必要でそれがお高い。また体力と忍耐力が必要だ。

5p1100098 席から見上げると5m先にピアノが鎮座

 

2018-03-17

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