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2018年3月18日 (日)

高松国際ピアノコンクール「天国と地獄」2/5

ピアノの天国と地獄

 課題曲の「火の鳥」、「戦争ソナタ」、ショパンの練習曲などは、ハンマーの乱打激打の様で、ピアノを壊すための曲ではないかと思うくらいの激しい曲だ。あるピアニストは拳で鍵盤を叩いていた。私のピアノの練習での負荷量の千倍も1万倍もピアノをいじめている。ピアノにとっては、地獄の試練である。その為だと思うが、一次審査2日目のお昼前にカワイのピアノの弦が切れたみたいで、お昼の休息中に弦を張り直すのに、小宮山調律師が汗を流していた。流れるような静かで美しい曲をピアノの達人が弾いてくれて、聴衆を魅了する時は天国だが、コンクール用の激しい曲で技を競う時は、天国と地獄の両方をピアノは味わう。

 演奏中にピアノの弦が切れるのは名誉なことだと思う。それくらい激しい弾き方が続く。その激しい弾き方をする人が、一人ではないのだ。多くの演奏者に選ばれて、また演奏者が全体力を使って弾かれないと、弦は切れない。出番の少ないピアノでは、弦は切れないのだ。弦が切れてしまっては地獄であるが、一つの名誉ではある。疲労破壊であり、ある意味、過労死である。弦の戦死、殉職である。

 

ピアノメーカの天国と地獄

 ピアノメーカとしてフラグシップのピアノを持ち込んでコンクールに臨んでも、演奏者に選定してもらえないと、舞台上で、蓋をして鎮座しているだけになる。窓際族に落ちぶれる。世界一のピアノメーカの自負があっても、出番が少ないと、惨めである。コンクールでのピアノの出番数が、評価で天国と地獄を分ける。ピアノメーカにとっては、針の筵に座らされている趣である。ちなみにヤマハさんのピアノの生産量はスタンウェイの10倍である。ベーゼンドルファーはスタンウェイの10分の1である。ベーゼンドルファーが満を期して持ち込んだ280VCは、一次審査で2人にしか選定してもらえなかった。二次審査では1人になってしまった。ショパンコンクールでは、実質的にスタンウェイを凌駕したヤマハであるが、今回の高松でのコンクールでは、スタンウェイとカワイさんに惨敗である。

 

 一次予選41人中でのピアノの選定数は、スタンウェイ23、カワイ12、ヤマハ3、ベーゼンドルファー2である。 

 二次予選20人中でのピアノの選定数は、スタンウェイ10、カワイ6、ヤマハ3、ベーゼンドルファー1である。 

 

調律師の天国と地獄

 激しい課題曲の連続で、ピアノの調律が狂い、その対応で調律師は大変である。各メーカが控えているので、調律の時間も制限がある。昼間はその時間内で調律を終えねばならぬ。2日目にカワイのピアノの弦が切れたようで、小宮山さんが弦を張り直すのに汗だくになっていた。お陰で(?)私もそれを見ていて昼飯を食いそこなった。それは良きご縁との出会いでした。しかし調律師には地獄である。それでも自分が調律したピアノを多くの演奏者に弾いてもらえるのは天国に昇る気分であろう。仕事の報酬は仕事である。選定されないと地獄に落ちる思いであろう。

 3日目のお昼の調律時間にスタンウェイの調律師が、制限時間25分を15秒だけ超過して調律を終えた。素晴らしい時間管理体制である。その後、すぐスタンウェイのピアノが移動され、今度はカワイのピアノが舞台中央に出されて、小宮山調律師が調律に取っかった。お昼のコンクールが終わって観客がいなくなってから、また各メーカの調律師の仕事が深夜まで続くので大変である。海外のコンクールでは、調律師にさらに多くの負荷がかかる。

 

調律師の美学

 調律が終わった後、各メーカの調律師たちは2人、3人かかりで何度も何度もピアノを布で愛おしむように磨いていた。それはカワイもスタンウェイのピアノ調律師も同じである。本番の晴れ舞台で頑張れと励ましているようであった。

 弦を張り直し、調律を終えてから、小宮山調律師は、ピアノの下にもぐり総重量500キロのピアノを背中で支え、少し持ち上げてピアノキャスタの向きを角度で3度ほど修正した。ピアノの前脚のキャスタは45度方向の「ハの字」型に向けるのが正規のようだ。それを角度にしてたった3°ほど変えたのだ。されど3度の角度修正である。それで音が変るのだろうか。調律師のこだわりと美学である。良きものを見させて頂いた。

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 2018‎年‎3‎月‎15‎日、‏‎13:58 お昼の休憩時間中の調律

 

2018-03-18

久志能幾研究所 小田泰仙  e-mail :  yukio.oda.ii@go4.enjoy.ne.jp

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