天声人誤の竹槍が14万人を殺した(4/4)(改題・改定)
「ブッシュ大統領、宮中晩餐会で倒れる」が歴史の転換
2000年の米大統領選挙の投票数集計では、ブッシュ候補とゴア候補間のおそまつな得票数集計茶番劇が数カ月間続き、ゴア氏が国家の危機意識をもって身を引く形で第43代米大統領がきまった。その点で、ゴア氏の決断には敬服する。このドタバタ劇は、1992年、ブッシュ候補の父親であるジョージ・ブッシュ第41代大統領が宮中晩餐会で倒れることで、その幕が切って落とされた。大統領の健康を心配した国民が、当時のブッシュ大統領を再選させなかった遠因となったとも言われる。結果とし、次の選挙でクリントン氏は、ブッシュ氏を破り大統領にはなった。しかし後年弾劾寸前まで追いつめられた下品な事件を起こし、チャイナマネーに絡む疑惑を巻き起こした。不幸への道の前幕である。
もしこの宮中晩餐会での事件が起きなかったら、ジョージ・ブッシュ氏が再選を果たし、結果として2000年に、息子であるブッシュ氏の大統領当選はなかったと言われる。そしてイラク戦争の拡大もなく、世界貿易センタービルへの911航空機テロ(2001年)も、ISの誕生もなかったはずである。どちらが良かったのかは、神のみぞ知る。歴史に「もし」はないが、物事は死(本当の死でなくて、物事の終結)で新しい価値や進展が生まれる。
歴史の語り部が、文章の本質を吐露
事件が起こるとマスコミが騒々しい。それは格好の比較材料を提供してくれた。「段落とは」というテーマで、当時の各紙のコラムを統計分析で比較した(1992年)。今まで、「名コラムとは?」の定義が曖昧であったが、今回でそれが明白になった。また単にテクニカルライティングの視点だけでなく、日本経済と政策の誤りによる自殺者推移までに視点を広げて再検討をした(2017年)。
五紙のコラム比較
1992年1月9日,宮沢首相のブッシュ大統領歓迎夕食会で、大統領が過労で倒れるハプニングがあった。この「ブッシュ大統領倒れる」をテーマに各紙が記述した文は、そのコラムの書く人の文体を比較する絶好の機会となった。これの内容を分析した表と図を下表に示す。原文は、著作権の関係で掲載を控えますが、図書館に行くか、新聞社のHPでバックナンバーが閲覧できる。それを見なくても、現在のコラムを読めば、この傾向が理解できる。ご自身で、各新聞のコラムの論理性(ビジネス文書として必須)の有無を確認ください。ビジネスで役立たないコラムを読んでも、人生の道草になるだけである。
このデータと分析結果からの結論
(1) 「天声人語」は段落数、段落内の総文字数から判断して段落の思想がない。
(2) 「編集手帳」も同上の傾向ある。僅か2センテンス弱で改行している。 「天声人語」は3センテンス強で改行しているが、内容からみると,一文当たりの文字数が少ないので多く見えるだけである。実質の文字数で見れば「天声人語」と「編集手帳」は同レベルである。
(3)「春秋」はこの分量からすると常識的な段落の区切り方をしている。 段落の総文字数も他紙の2倍近い量でまとめてある。五紙の中で「春秋」のみが段落の思想あると言える。
(4) 「天声人語」の文は平均長さが27.8文字で,他紙と際立って短い。一文の平均文字数とその分散値の比からも、極端に短いセンテンスを織り混ぜながら適宜長い文も使って、メリハリを付けている。25文中,5文は15文字以下の超短文であり,最大長の文は57文字である。この特徴は文章の下品さを表すと感じた。
(5)「春秋」は文の平均長さが47.5文字で、分散値から見ても「天声人語」ほど極端な文の長短がなく落ち着いて書かれている。
(6) 「天声人語」は主語が毎回変わる。日経の「春秋」と比べると興味深い。
各段落の冒頭文の主語比較(各紙のコラム比較 例2)
テニルカルライティングの基本原則は、「段落の冒頭にはトピックセンテンスを据え、その主語は統一する」である。この原則に適合しているのが「春秋」で、外れているのが「天声人語」である。「天声人語」はよくもまあ、これだけ主語を支離滅裂に変えて書けるものだと呆れる。文は名文なれど、論理性なし。日本政界では、「言葉明瞭、意味不明」の首相も多く出現した。日本の代表新聞のコラムだからその象徴かもしれない。
その昔、私も英語の勉強のため、天声人語の英訳本を買って読んだことがあるが、今にして思うと、実に不適な教材を使ったと後悔している。日本語が論理的でなく、主語が毎回変わり、主語が省略されてる文書は、英訳にするとバラつきの多い変な英文になる。その点からも、日本語失格の文章である。工業製品としての文章ならだれが英訳しても、同じ翻訳となる。正しく英訳できるかどうかも、工業製品としての評価指数である。
ビジネス文書は工業製品である。工業製品であれば、その品質が問われる。論理性ある文章は、主語、述語、動詞、目的語等が明確で、文書の品質にバラツキはない。それがバラツクなら、それは芸術・文学の世界で、情報伝達のための工業製品ではない。それは上図のバラツキ、分散の分布は明確に示している。
図1 五紙のコラムの傾向
表1 コラムの分析表
表2 コラムの冒頭文の主語比較(括弧内は省略された主語)
資料1 各コラムの冒頭段落
2017-07-31
能幾研究所 小田泰仙 HP: https://yukioodaii.wixsite.com/mysite
著作権の関係で無断引用、無断転載を禁止します。
表1 コラムの分析表
コラム名 日本経済新聞 朝日新聞 読売新聞 毎日新聞 中日新聞
春 秋 天声人語 編集手帳 余 祿 中日春秋
項目 単位
総文字数 文字 618 696 505 590 623
文数 個 13 25 11 18 16
段落数 個 4 8 6 6 6
段落の平均文数 個 3.3 3.1 1.8 3 2.7
段落毎の平均文字数 文字 155 87 84 98 104
一文の平均文字数L 文字 47.5 27.8 45.9 32.8 38.9
分散 σ 15.9 11.8 17.7 13.3 15.6
表2 コラムの冒頭文の主語比較(括弧内は省略された主語)
「春秋」 「天声人語」
① ブッシュ大統領は ① ブッシュ大統領は
② 大統領は ② 訪日については
③ (大統領は) ③ (行動は)
④ (大統領の)代役スピーチは ④ それは
⑤ こころの状況までが
⑥ そういう例も
⑦ (この事実は)
⑧ (我々は)
資料1
著作権の関係で、各社のコラムの第一段落のみ記載します。(後半は各社のHPか、各市の図書館の蔵書で確認ください)
「春秋」 日本経済新聞社 1992.01.10
ブッシュ大統領は自国を離れるほどリラックスする人物だといわれる。外交に精を出したのも得意技がここにあるからだろう。米国経済建て直しの長旅も,成果を上げて米大統領選の予備選に臨もうという戦略だった。(以下略)
「天声人語」 朝日新聞社 1992.01.10
夕食会で倒れたブッシュ大統領は,昨日,比較的元気な姿を見せた。疲れがたまっていたに違いない。ひどい事態に至らず,何よりだった。
今度の米大統領訪日については,米国の中だけでなく,欧州にも冷やかな見方があると報じられていた。産業界代表を引き連れての,あまりにも露骨な商売第一主義,というのだ。(以下略)
(わずか2文で段落が変わっている。次の段落では別の話題である。段落に思想が全くない)
「編集手帳」 読売新聞社 1992.01.10
「トランジスターのセイルスマン」と日本の首相が皮肉られたのは昔。今,「自動車のセイルスマン」と陰口されながらの旅は,ブッシュ大統領もさぞ気が重かったことだろう。(以下略)
「余録」 毎日新聞社 1992.01.10
「ロシアの専制君主は地球上のだれよりも権力を持っている。しかし,その君主でさえ止めることのできないものが」とマーク・トウェーンはいった。「それはクシャミだ」(以下略)
「中日春秋」 中日新聞社 92.01.10
宮沢さんの言う通り,確かに米国は病んでいた。大統領が夕食会の席で倒れた光景をテレビで見て,思わずそうつぶやいた人も多かったろう。(以下略)
2000年12月16日作成の論文を、グローバル経済主義企業の跋扈にアタフタする状況を、現在の視点で見直して掲載した。(2017年7月31日)
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