文書道・テクニカルライティング Feed

2017年6月30日 (金)

オウム真理教とテクニカルライティングの死闘

  1995年5月7日(日)夜、某民放でオウム特集番組が放映された。たまたまその番組を見ていたらそこに、私の科学工業英語の師である早稲田大学篠田義明教授がコメンテータとして登場して驚いた。1995年6月3日、テクニカルライティング国際セミナー(大阪)での懇親会で、篠田教授からその時のエピソードを伺う機会を得た。

 

 地下鉄サリン事件は、1995年(平成7年)3月20日に、東京都の帝都高速度交通営団で、宗教団体のオウム真理教が起こしたサリンを使用した同時多発テロ事件で、死者を含む多数の被害者を出した。5月16日に教団教祖の麻原彰晃が事件の首謀者として逮捕された。

 上祐は、早稲田大学在学中の1986年8月に「オウム神仙の会」に入会する。早稲田大学高等学院、早稲田大学理工学部を経て、1987年早稲田大学大学院理工学研究科修士課程を修了し、同年4月に特殊法人宇宙開発事業団に入る。宇宙開発事業団は、翌年には退職、出家する。5年後の1992年12月には、「尊師」に次ぐ位階の「正大師」に昇進。1993年9月にはロシア支部長に就任。上祐は、ロシアへは実質的には左遷で飛ばされていたため、幸か不幸か、サリン事件には直接関与しなかった。上祐は地下鉄サリン事件後に麻原に日本へ呼び戻され、「緊急対策本部長」に就任。2年後の1995年10月に国土利用計画法違反事件で有印私文書偽造などの容疑で逮捕され、懲役3年の実刑判決を受ける。

 

 この番組は、当時「時の人」であったオウムの上祐広報部長がディベートの達人であったため、各放送局が上祐氏にやられっぱなしなので、篠田教授にその論法の解析とコメントを求めての出演であった。そのご指名の理由は、早稲田大学篠田教授は、日本でテクニカルライティングの第一人者であったのと、ディベートの達人(と世間が誤解)の上祐被告(1996年現在)が同じ早稲田大学出身であったためである。

 

その番組での篠田教授のコメント

 「最初に結論を言って、その次にデータでその裏付けをしているので、いかにもテクニカルライティングの手法だが、データを多く見せているだけで、自分達に都合の悪いことは何も言ってない。またそのデータの真偽を証明していないので、論理が間違っている。上祐広報部長の論法は、データを多くして、焦点をぼかしている。これは本当の論理的な説得ではない。」

 

エピソード

 その夜、オオム真理教からの怖いアクションがあった。テレビ出演後、オウム真理教団からテレビ局に1回、自宅に2回も電話があった。そのため、その夜NHKから、翌朝の番組への出演依頼があったが、命に係わることなので、篠田先生は出演を辞退された。また一時期、不審者の尾行が付いたため先生には警察から護衛がついた。またこのTV収録でも、かなりの部分をカットしたとのことだが、それでもこの有り様である。

 上祐は早稲田在学中、篠田教授の講座を取っていたとのこと。篠田教授は、上祐のことを良く覚えていると仰っていた。なにせ、当時学生の上祐だけが、篠田教授にいつも英語で質問をしていた。だからよく覚えていると仰っていた。

 

 何事もその目的とするところを取り違えると、オオムの上祐のようになる。それは往々にして頭のいい人にそれが起こりがちである。事の本質を知るには、「その目的は何?」を5回唱えると良い。トヨタ生産方式の神様、大野耐一氏も、なぜ?なぜ?を5回繰り返せと、その大野語録で述べている。言わんとするところは同じである。

 篠田先生の評価は社内で大きく別れる。ある人は篠田先生の口癖の「だからダメなんですよ」に反発を感じ、別の人は一方的に否定されるのに付いていけない等である。その受け止め方は、その人の器の問題である。

 どんな素晴らしい師についても、受け手の持つ器の大きさ以上には受け入れられない。器が小さければ水はコップから溢れるだけ。またその周波数にあったアンテナを持っていないと、馬に念仏となる。

 また最低限、そのコップは立っていなければ、いくら水を注いでもコップの中に入らない。己の心は立っているだろうか、自問したい。

 だからこそ人は自らの器を立て、その容量を大きくするために、正しい道で学び続けなければならない。自分の器が小さいと、何が正しくて何が正しくないが見えない。特に頭のいい人ほど、その器に柔軟性がなく、考え方は思い込みが支配している。それが固定観念である。人は謙虚さを忘れたとき、成長が止まり、その殻から脱出できなるなる。素直に何事も真剣に取り組む人が自分の殻を破り成長する。

                    1996/06/03初稿、2017/06/30 追記

 図1 2つの教育 (「修身」より)

Photo

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2017年6月27日 (火)

てんで話にならず

1.2  自然な論理展開

 

 自然な論理展開とは,読者の期待を裏切らない記述手法である。各種の文章読本には論旨の展開方法として、起承転結が推奨されているが、ビジネス文書で、「起承転結」の論法は間違っており、使用禁止である。ビジネス文書で「起承転結」の「転」がこれば、論理破綻である。ビジネスマンは、文学作品を書いているのではない。相手を説得して(文書で当方の意図を伝え)、意図が成就(金儲け)するために、文書をデザインして書く。社長はそれに対して給与を払う。文学作品では給与が出ない。ビジネス文書で「転」が来れば、読み手が困惑し、会社が損をする。

 

文学作品としての例

   京の五条の糸屋の娘        〔起〕

   姉は十七,妹は十五        〔承〕

   諸国諸大名は弓矢で殺す    〔転〕

   糸屋の娘は眼で殺す        〔結〕

 

ビジネス文例1

   A  は B,C,D,Eから構成されている。

   B  は ・・・・である。    

   C  は ・・・・である。   ← ここでお天気の事を言ってはダメ

   D  は ・・・・である。        新聞コラムでは、この転が乱用される。

   E  は ・・・・である。   新聞コラムは文学でビジネスではない。

 

ビジネス文例2

 A  は B  である。

 B  は C  である。

 C は D  である。 よって

 A  は D  である。

                                         

 

文例)『桃太郎』

   昔,昔あるところに,おじいさんおばあさんがいました。

 →  次文の主語は、「おじいさん」以外にはない。これが自然な論理展開。

   「おじいさん」の記述が済めば,次文は「おばあさん」が主語の記述となる。

  これが自然な論理展開。

 

  おじいさんは山へ柴刈りに,おばあさんは川へ洗濯に行きました。ある日おばあさんが川でせんたくをしていますと・・・・

 

  以下「おばあさん」と言う主語が、変わっていない記述手法を注意。

    主語が変わらないので,内容が理解しやすい。

 

    「おばあさんが,かわで  せんたくを・・・・ながれて  きました」

    「おばあさんは,びっくりして,めを  まるく  しました」

    「おばあさんは,ももを  ひろって,たらいに  いれました」

    「おばあさんは,おもたい・・・・ももを  うちへ  もって  かえりました」

 

 

 文学は雅の世界で、ビジネスの金儲けとは別世界である。起承転結が通じるのは漢詩、日本文学の世界のみある。日本の新聞紙上でさえ、文学作品とビジネス文書をごっちゃにして、起承転結を錦に御旗にした文章を書いているから、それに慣れさせられた日本人が世界のビジネス戦争で負けるのだ。

 

敵を知り己を知れば百戦殆うからず(孫子)

 欧米の狩猟民族は、金儲け至上主義で、「雅」など知ったことではない。我々が世界を相手に戦って生き抜くためには、相手の論理スタイルを知り、己の間違った文書パターンを知り、相手に合わせて戦わねばならぬ(敵を知り己を知れば百戦殆うからず)。文書は、ビジネス戦争の武器である。武器には、武器として使う作法がある。弓道、武道等が日本の作法であるように、テクニカルライティングとは、欧米の文書道である。文学は夢の世界で、書き方は何でもありだが、テクニカルライティングには、工業製品として法則とスタイルが決まっている。何時でも何処でも誰にでも、通用する法則で書類を書けば、工業製品として世界に通用するビジネス文書が出来上がる。欧米のテクニカルライティングとは、論理思考を、文書の形に展開する手法である。

 

私のテクニカルライティングの学び

 私は日本語の文章での書き方の論理構成を学ぶために、ミシガン大学のテクニカルライティングセミナー(科学工業英語)に、二度参加した。英語の勉強をするために渡米したのではない。最初の1994年は、110万円で自費参加。会社にこの教育の展開を提案して、2度目の1997年、検定試験1級合格のご褒美として出張扱いで参加した。

 英語を学ぶと自然に論理構成が分かる。日本語が出来なければ、英語もできない。科学工業英語の検定試験1級には、ネイティブ並みの英語力TOEIC900点でも、合格できない。英米の現地人が、正しい英語を書けるわけではない。TOEIC600点でも、自然な論理展開法が使いこなせれば合格できる。過去30年間の科学工業英語検定試験で、1級合格者は500人もいない。英検1級なら数万人である。私は3年の挑戦で、389人目の1級合格を射止めた。それで学んだ武器としての文書道で、えげつないビジネス社会を生き延びてきた。それを教えて頂いた篠田義明教授と後藤悦夫先生に感謝です。

 

 

文豪の森鴎外、夏目漱石、芥川龍之介、川端康成らの文学者は、英文科卒である。文豪と称される彼らは欧米の英文の書き方を学んでいるので、その文学作品は、ビジネス文書ではないが、論理的に書かれている。

 

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図1 ビジスネとは生き残りをかけた顧客創造戦闘

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書の著作権は馬場恵峰師にあります。所有権は久志能幾研究所にあります。

2.7 段落(パラグラフ)

  段落はそれで一つの論旨のまとまりとして,一つの主文とそれを説明、修飾する従文、各論から構成される。段落の第一文は、その段落の要約文とする。

 

  その段落に、その内容に反した意見、内容を書いてはならない。書く場合は段落を改めるか章を改め反論、反対の意見を記述する。同じ段落で違った論がでては読者が混乱する。これでは読み手は著者が何を言いたいのか分からない。

  ある「文章読本」で、「2~5のセンテンスを続けたら適当に改行すると良い」など書いてあったが、これは間違いである。この著者は、論理性の記述が何たるかが分かっていない。ある論旨で記述している間は、死んでも改行してはならない。たとえそれが数頁になっても、である。通常、たまたま2~5行でその論旨が終わるので改行しているだけで、美しくするために改行しているのではない。

 このことはつい最近でも、朝日新聞社でさえ行われていた。

 

2.7.1 辞書比較

  下記に代表的国語辞典での「段落」の定義を記載する。

 『実践・言語技術入門』朝日選書

  ・段落は、ある話題についての書き手の考えを明確・簡潔に整理して表すための基本的な部分の単位である。

 『例解新国語辞典』

  ・文章のなかで、意味の上でひとまとまりになっている部分。書いたり、印刷したりするときは、段落の最初を一文字分下げてはじめるのがふつう。

 『新明解国語辞典』第3版

  ・文章中の意味の上での大きな切れ目。〔物事の区切りの意に用いる。例,「これで一段落だ」〕

 『広辞苑』第4版

  ・長い文章中の大きな切れ目。段。転じて、物ごとの区切り。

 『岩波国語辞典』第3版

  ・長い文章を幾つかのまとまった部分に分けた、その一くぎり。転じて,物ごとの切れ目。

 “LONGMAN DICTIONARY OF CONTEMPORARY ENGLISH"

  paragraph: a division of a piece of writing which is made up of one or more sentences and begins a new line

 

 

 こういった意味の表現、定義の仕方(定義法は次章参照)の比較からも辞書の善し悪しが判断できる。最初の3冊が合格ラインの記述内容である。国語教育で、段落の意味が徹底されて指導されていない事情は国語辞書の表記を見れば理解できる。購入選定の際は、自分の目でサンプル単語をチェックして辞書を選定するのが辞書選択の一方法である。

 

 段落とは、それで一つの論旨のまとまりとして,一つの主文とそれを説明,修飾する従文,各論から構成される。「段落の第一文は,その段落の要約文とする」がビジネス文書の段落の原則である。その視点から段落について、各新聞の名コラム(と称される)の比較をしたい。名コラムは名文とれさているが、個別の名文が集まってもそれが文章として名エッセイとなるは限らない。

 

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2017年6月26日 (月)

御礼

 いつもブログを読んで頂きありがとうございます。ブログを開設して昨日(6月25日)で、1か月が過ぎました。当初は、どれだけ読んでいただけるかと不安でしたが、お陰様で1日に平均70回ほどの閲覧実績となりました。1か月目の昨日は、今までで最高の140回の閲覧を記録いたしました。お陰様で、エンジョイブログの人気トップ20にも数回顔を出すまでになりました。

 これも読んで下さり、コメントをして頂ける皆様のお陰です。それが何よりの励みです。今後も精進をして、経営に役立つ良き情報、ヒントを入れたエッセイを書いてまいります。皆様の叱咤激励をよろしくお願いいたします。

 

追伸

 今までは、特定の人だけを対象とした文書を書き、製本してもごく少部数を特定の人だけに配布していました。今回、ブログで公開するにあたり、極めて緊張して、精魂込めて文章を選別・作成・校正・点検・法的チェックまでをしてアップしています。今までは、書きなぐって製本にしてきた感があります。あとから見ると誤字脱字だらけです。その点で、公開する文書を作成し続る「修行」は大変勉強になりました。

  ブログは美人コンテスト、モデルショーの感があります。いくら美人でも、修道院の中にいては、その美貌は磨かれません。衆人の前に己を曝し、自分を磨き、緊張して、構えて己の思いを表現する。それでその美貌がさらに洗練されて超美人に変貌するのです。仕事でも、自社の製品でも同じです。磨いてくれるのは、使ってくれる顧客、見てくれる観客、聴いてくれる聴衆、読んでくれる読者です。仕事とは、己のファンと共に奏でるオーケストラとしての作品なのです。一人だけでは、お客がいなければ仕事とは言えません。

                 

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   2017年6月26日    小田泰仙

2017年6月 9日 (金)

あなたは文書テロリスト?

文書は、情報伝達の飛び道具。

情報は、情けの報せ。あなたの文書は、無情

情報を達しても、相手にしていますか?

                                 

 クライテリア  CRITERIA(規準に則って)

 テクニカルライティングの要点は「クライテリア」である。先ず方針ありきで、その基本方針・考えが明確でないと、書類作成も仕事でも何事も進まない。米国ビジネス社会では、「読みにくく、内容不明瞭な文書を、上司が読まなくても何ら責任がない」とスチーブンソン ミシガン大学教授は断言する。

 米国ビジネス社会では管理職が、受け取った書類を扱う平均時間は、30秒だ。日本社会では、出した書類を読まなかったら、その読まなかったことが責任とされる社会である。そういう点で、日本のビジネス書類には緊張感がない。それに対して、米国ビジネス社会では書類を読んでもらうため、クライテリアを明確にして文書デザインをしている。

 

 文書デザインという概念は新鮮な響きがある。論理構成のない、なぐり書きされた書類やメール文は、文書のテロである。マネージャには日に何通もの書類、電子メールでは日に100~200通が舞い込む。論理構成のない書類は、相手の時間を奪う泥棒である。テロ文書は家庭ある管理職の帰宅を遅くし、管理職にストレスを与え、パワハラの遠因となりかねない。

 

 文書を如何に「設計」するかは、その基本概念の明確化(クライテリア)、書類の概略構想、スケッチ、詳細記述等と、工業製品を作るのと同じ設計プロセスが要求される。多民族社会では以心伝心が通じない。また個室が常識の米ビジネス環境では、文書、書類が最大の意思伝達ツールである。電子メールが普及した現代では、文書での意志伝達の明確化が要求されている。訴訟社会でPL問題も抱えている米国社会では、その書類に書かれた言葉が大きな責任問題にも発展する。そのためにこそ論理的な文書の設計が必要とされる。

 

 欧米でのレポートには、自分の考えと、根拠ある推奨(主張)の付加が必ず求められる。テクニカルライティング演習の課題で、あるレポートを書かされた。その設定・質問には単に「解説を述べよ」とだけとしか記述がなかったので(何度も確認して)、その通りに書いたら、マセィズ教授からケッチョンを食らってしまった。早速、自信を持って確認したはずの設問について、教授に噛みついたが、教授からは「日本ならその解説だけで許されるが、米国人なら常識的に自分の考えと、推奨(主張)を入れてレポートを作成する」と諭されてしまった。

 

 間違っていようがいまいが、自分の考えが重要視される米国社会である。これは前記のクライテリアにも通じる。こういう事例は、なかなか日本では体験できない。自己主張を殺した日本の報告書に慣れていた私には、驚きの体験であった。

 最近の米国政治家の過激な発言は、まず恫喝として言うだけは己の意見として展開するのが本能だ。それを割り引いて言い分を聞かねば、言いなりにされる。彼らは狩猟民族で、日本は農工民族である。

 

文書のオーディエンス(読み手) 

 テクニカルライティングは、英語の勉強でなく、文書の論理構成の学習である。文書には、相手に何かの行動を期待し、実際に行動してもらう目的がある。欧米では文書の書き方によって、然るべき行動がなされず、スリーマイルス島原発事故のような人類の危機や、スペースシャトル・チャレンジャーの爆発による人命の喪失、国家の威信の喪失まで招く事例が存在する。

 

 米国スリーマイルス島の原発事故のドキュメントの事例紹介では、米国における文書・報告書・提案書の記述方法が、人類の危機に発展する深刻な事例として紹介された。米スリーマイルス島の原発事故では、事故数カ月前に、その前兆の報告書を技術者が上司に提出していた。しかしその報告書が読みにくく、かつ論文調に書いてあったため、責任者はその報告書を無視した。その結果がスリーマイルス島の原発事故につながった。それが裁判になって、然るべきスタイルで提案書を書かなかった技術者の過失が問われ、結果として、その上司の管理職は無罪になっている。

 

  この事実は、日米の価値観の相違を表している。日本人の私はこの見解を無責任だと思うし、プロならもっと自分の仕事に責任を持てと言いたい。しかしここには米国社会の個人主義、個室を中心とした会社運営形態で、書類だけで情報交換をされる仕事方式が背景にある。その書類の記述方法で論理的に記述する重要性が出てくる。それが欠如した書類は、情報通達ができない欠陥商品である。

 

 そういう点で日本社会は幸せかもしれない。詳細に書かなくても、然るべき状況、立場のわかる人達がそれ相応に解釈して仕事が運ぶ。「後はよろしく」で。またそこまで言わなくてもと言った社会慣習である。しかしこれは、欧米では通用しない慣習である。

 

 曖昧文書が与える損害

 冗長で不明確な報告書のため、1通につき余分に5分間必要と仮定すると、年間損害を、50万円と試算した。しかし、欧米の現実はもっと大きなロス・悲劇を生む可能性がある。

 100円/分  ×  5人  ×  10通/年 ×100人/課= 50 万円/年/課

 

教養ある英語 

 講義を担当したスチーブンソン教授、マセィズ教授は英語がとてもうまかった。お陰で、私の英語力でも授業にはなんとかついていけた。知性のある人は、相手を見て使うべき単語、語彙、スピードを選択する。しかし教養がないと、相手お構いなしの機関銃のような英語を話し、少々英語ができるぐらいでは、全く理解不能となる。両教授の英語を聞いて、教養のある英語とはかくの如し、と認識した。思わず教授に、「英語がお上手ですね」と言ってしまった。これには先生も苦笑い。

 

   日本語でも、日本語が下手な教師がいる。それは相手のレベルを考えない話し方・教え方をする教師である。何事も相手に合わせた情報伝達が基本である。我々は教養ある日本語を使っているかを自省したい。言葉を使うことだけが、コミュニケーションではない。

図1 武道としての情報設計

図2 ミシガン大学での授業風景・スチーブンソン教授(右側中央が著者)

図3 ミシガン大学での授業風景・マセイズ教授

本原稿は1994年ミシガン大学夏期テクニカルライティングセミナー体験記の再校正版です。

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2017年6月 8日 (木)

ターゲット・メールを発射(改定)

貴方のメールは読まれていますか?

読まれずに無視されていませんか?

 

 ウィーン楽友協会に大垣市の代理人として表敬訪問することが、渡欧の1週間ほど前に急に決まった。その当時、「馬場恵峰卒寿記念写経書展写真集」の出版最終確認と修正で忙殺されていて、楽友協会にアポイントを取る時間余裕がなく、そのままウィーンに向かった。今にして思うと何と愚かなことかと。訪問目的が、美術館目録の寄贈と表敬訪問だから、行けば何とかなる思っていた。

 ところが現地の楽友協会の窓口で、けんもほろろに対応された。窓口女性から「楽友協会の要人にe-mailを送って面会予約をして下さい」である。もしPCを持っていなければ対応不能である。慌ててベーゼンドルファーのマネジャーに、楽友協会の誰にメールを打つべきかをネットで調べてもらった(ドイツ語のHPだから理解不能)。ベーゼンドルファーのマネジャーでも、楽友協会は、敷居が非常に高く簡単には面会予約は取れないとか。ベーゼンドルファーは楽友協会ビルの単なる店子の一つであると。幸いiPadを持ってきていたので、ホテルに戻りメール文を作成した。

 

 前職の会社では、室長、部長、役員には日に100~200通の大量メールが舞い込む。楽友協会には世界中からメールが舞い込むはずだ。その洪水のようなメールの山から優先して読んでもらうには、相応の文書技術が必要である。それは英文も和文も変わらない。聞けば、楽友協会は日本のお役所以上に敷居が高く、返信は2,3週間後が普通だとか。

  そこで役立ったのが今まで磨いてきた和英の文章作成技術とテクニカルライティング技法である。メールでどう書けば、相手がすぐ開封し、すぐ返事をもらえるかを考えた。それを考えた題名と文面にして、面会依頼のメールをホテルから発信した。そのメール題名には話題と目的を入れ、文章の冒頭には単刀直入に要件と、文面には日本,大垣、表敬訪問、守屋多々志美術館の図録寄贈、ブラームス、戸田伯爵夫人、六段のキーワードを散りばめた。小さな辞書しか持ってこなかったので少し苦労をしたが、半日程ホテルに籠ってメール文作成に集中して推敲を繰り返した。そのため予定のウィーン市内観光を諦めることになった。

 返信は半分諦めていたが、2日後に返信が来たのには驚いた。それも亡くなっていると聞いていたビーバー・オットー博士からである。これには心底驚いた。やはり現地現物で、現場に来ないと分からないことがある。

 

 送るメール文に、受信者の心に響く言霊があれば、反応がある確率が高い。お役所的な文面や教科書的な文面では、ダメである。相手の心の中心に突き刺さるメール、それがターゲット・メールである。これは全てのメールで心がけたい要点で、私が前職在職中に、10年間ほど技術者教育で指導してきた。1994年のミシガン大学夏季セミナー受講(自費110万円)が、23年後のウィーン訪問で役立った。自分への投資は、後年に必ず得るものがある。

 

 ターゲット・ストロークとは、相手の心にグサッと突き刺さる言葉や行動、愛情の表現を示すことで、心理学用語である。【ターゲットとは、丸い標的に矢を射ること(Longman Exams 英英辞典)】

 

 退職後、自宅に舞い込む無頓着・無邪気なメールの山を見て、ITマナーの欠如に呆れている。これでは中小企業の経営として無駄が大きく、経費増の原因になっているのではと危惧している。直接に言うと角が立つので、正しいメールマナーの一部を公開します。下図は前職で、新人教育に使った資料の一部です。

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