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2018年3月 3日 (土)

痴鈴痴憐に日本人の劣化を見る

 最近の風潮で、猫も杓子も携帯や財布やカバンに鈴を付けてチリンチリン(痴鈴痴隣)と傍若無人に音を響き渡らせ、それに無頓着な老若男女が氾濫している。老人は耳が遠くなっているか痴呆化なのか、回りの迷惑には不感症で、その音が聞こえないようだ。「自分だけが幸せになりますように」と鈴を鳴らしまくって徘徊している。若者は耳にイヤホンで音楽を聴いているので、自分が出す迷惑音に気がつかない。中年ビジネスマンは、電車の中や禁止区域でも携帯電話で成果主義に追いまくられ話しまくっている。経営者は金儲けに目が眩み、己の愚行が他人の迷惑になっていることに気がつかない。これでは、日本経済が停滞し、日本人が劣化するのも故あること。

 

「道徳の会」の不道徳行為

 毎週の休日、ホテルで朝会をしている経営者団体がある。なんでも「道徳の会」のような名前であるが、この人たちが不道徳行為に走っているのは、大いなる皮肉である。2018年3月3日朝、その団体の朝食会場から拍手と歓声が流れ、静かなホテルの少し離れた朝食会場に、その騒音が響き渡ってきた。どうも、その団体への新入会員の紹介の場面と推察された。その経営者達が集団でホテル宿泊客に迷惑をかけている。やっている経営者と自称する者たちは、その自覚が全くないようだ。それで「道徳の会」の名前が呆れる。以前、その団体はホテル客と同じ会場で朝食をとっていたが、その団体の行動が目に余り宿泊客の迷惑とあるので、ホテル側は、その団体の朝食会場を別にした。しかし、その変更理由にその経営者の幹部は誰も気がつかない。経営者は、些細な変化を捉えて経営判断が求められる。それが出来ない経営者達である。それが「道徳の会」の朝会に出ているという自己満足で、過ごしている。

 私も以前に入会を誘われたが、その会員の実態を見ていたので、入会を辞退した。街の中小企業の経営者がその「道徳の会」へ入会する動機は、商売上で金儲けのツテを求めているだけのようだ。それ故、「その会員の新陳代謝は激しい」と毎回、その団体を観察してるホテルマンは言う。私は朝食会場で彼らの雑談を横で聞いていて、その内容の下劣さに呆れて、入会を辞退した。多くの部下を持ち、人を導く立場の中小企業経営者達が、このレベルでは、日本人の劣化も故あること。

 静かなホテルの会場で、団体が大きな拍手と歓声を上げるのは、痴鈴痴憐と鈴を鳴らす痴人と同じである。静かなホテルのロビーで、大声で話しまわる近隣諸国の団体客と同じレベルである。

 

 

玉田裕人さんのピアノコンサート

 その朝食を済ませた後、11時から名古屋のヤマハグランドピアノサロンで、玉田裕人さんのピアノコンサートに出かけた。玉田裕人さんはベーゼンドルファ弾きの達人である。今回の私のお目当ての一つが、ベーゼンドルファ214VCの音色確認である。

玉田裕人さんの演奏の写真撮影の許可もいただいた。会場がサロン形式なので、皆さんに邪魔にならないように撮影は最後列のその後ろから撮ったので人影が邪魔になり、またこのサロンは一般のホールよりも暗いのでピントが合いにくかった。20枚ほど撮ってから、よい写真を撮るのをあきらめて、玉田裕人さんの演奏を聴くことに集中した。私はその演奏を堪能した。

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    会場風景。手違いでフラッシュが光ってしまった。ごめんなさい。

 

異人闖入

 その演奏が始まってしばらくして、異様な姿の若者が入ってきた。クラッシクの演奏会なのに、大きなリュックサックを背負い、決して清潔とは言えない風体で入場してきて、ピアノの演奏が始まっているのに、声も落とさず受付に質問をしている。背負ったリュックサックにぶら下げた多くの鍵の相互に当たる金属音が、演奏中の会場に響いた。本人は無頓着である。私は我慢できなくて、敢えて注意をした。それでも本人はきょとんとしていた。その御仁は、その後、演奏中なのに、後ろの席でスマホをいじり出した。何しに来たの?

 あとで、受付の女性から、私が注意してくれたことに感謝をされたが、「下手に注意をすると最近は異常な人が多く、危害が及ぶ場合があるので黙認です」と言われて、現代の世相に危機感をいだいた。これも日本人の劣化の証しだろうか。

 

静寂文化に暴力音が殴り込み

 日本の家屋は木と紙でできている。それ故、隣りの部屋の音は丸聞こえであった。最近は多少改善されたが、純日本家屋では、昔と防音関係は変わらない。そのため、日本人の生活や話し方、音の出し方には、他人を慮り、周りに気を使う文化が生まれた。その文化をテレビと携帯と携帯音楽が破壊している。テレビを付けっぱなしにしないと寂しいという病気みたいな人間も多い。耳にイヤフォンで音楽が流れていないと勉強できないという学生も氾濫している。最近の日本人がチリンチリン(痴鈴痴隣)の音に不感症になるのも故あること。このままで日本の静寂、他人を慮る文化は劣化しないのか、危惧している。

 

ビエナトーン(ウィーンの音)の熟成

 それに対して、欧州、特にウィーンは石の文化である。道路も石畳、教会も建物も住居も石造りである。ウィーン市街を一人夜道を歩いていると、後ろからヒタヒタと後を付けてくる音が響いてくる。後ろを振り返っても誰もいない。恐ろしくなって慌てて自宅に逃げ帰ったとは、ウィーン在住歴20年余のベーゼンドルファ専属調律師井上雅士さんのお話である。後ろから聞こえた音は、石畳、石の建屋に跳ね返った自分の足音が聞こえてきたのだ。教会や美術館、宮廷の建屋に入ると、自分の話し声が反響として響いてくる。それ故、壁にかかった絵を見てその感想を述べるにも、小声で話すという上品な文化が生まれ、ウィーンの独特の音文化を作った。オーストリアはドイツ語圏であるが、正式のドイツ語で「ざじずぜぞ」の音階も、ウィーンのドイツ語では「さしすせそ」の音になって濁音が消えた言葉になっているという。「ベーゼンドルファ214VC」のVCの、Vはビエナ(ウィーン)、Cはコンサート、直訳すると「ウィーンのコンサートの音」、ビエナのトーン」である。それを意識して作られたベーゼンドルファの音色には、歴史と文化の香りがある。

 

現代の世相に危機感 -- 思考文化の破壊

 その両方の文化が、下劣なテレビ、スマホ、携帯音楽、身に付けた鈴で汚染されようとしている。ウォークマンを創造したソニーは素晴らしいが、無差別な音の氾濫させたアップルは、その運用では世界の文化の破壊者となったようだ。騒音よりも静寂に価値があると私は信じる。どんな超一流の音楽家が演奏した音でも、聴く人が興味を持たなければそれは騒音である。44年前の1974年8月28日朝、神奈川県平塚市でピアノの騒音を理由として、母子3人が殺害された「ピアノ騒音殺人事件」が起きた。その教訓を現代人は忘れている。音楽を耳に強制的に流しぱなしにすることは、音に不感症になり、思考を停止させる。最近の大学生の半数が、本を全く読まないという。これもその影響だろう。静寂の文化をもっと大切にしたい。日本の未来が心配だ。

2018-03-03

久志能幾研究所 小田泰仙  e-mail :  yukio.oda.ii@go4.enjoy.ne.jp

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