前後裁断 (磨墨知122)
「過ぎ去れることを追うなかれ。今だ来たらずを思うなかれ。過去は既に捨てられたり。未来そは、到らざるなり。されば、ただ今あるところのものをその所に於いて観察すべし。ただ今、正になすべきことをなせ」 平家物語
「いま」、「ここ」に全力で生きると時間が輝く。昨日は二度と帰らぬ過去のこと。明日は遠~い未来のこと。明日があると誰が保証するのか。今は新型コロナに襲われるやも知れぬ末世だ。今こそが、勝負の時だ。「いつか」、「今度に」などは、痴れ者の言葉。それは言い訳の言葉である。それが実現したためしがない。
「今忙しいので、今度、時間が出来たら、書道を教えてもらいに来ます」「いつか先生の書道教室に参加します」と恵峰先生の知人がいつも言っていた。忙しい忙しいと言いながら、その人の車が、パチンコ店の前に停まっていたのを恵峰先生はたびたび目にした。いつしか、その人の家に忌中の札が貼られた。とは、恵峰先生の講義でのお話しであった。
前後裁断
あれほど元気であった恵峰先生も、わずか一ヶ月ほどで、病状が急変して、この正月に逝去された。九州からの連絡で、胸騒ぎを覚えて、このコロナ禍の中、2020年11月と12月に1泊2日で4回、九州に飛び、恵峰先生宅に最後の面会に行った。
8回お見舞いをしても、恵峰先生とまともな会話ができたのはわずか2回であった。遠方から恵峰先生の見舞いに来た仲間も多くいたが、先生の意識がなく、先生と会話もできず帰った仲間も多い。
それに比べれば私は幸せだ。前後裁断、意を決して、九州に飛んでよかったと思う。そうでなければ、一生の悔いが残った。今しかなかったのだ。
新型コロナ禍の中、感染の危険を避けるため、全てグリーン車を使い、何処にも寄らなかった。新型コロナの影響で、グリーン車はほぼ貸し切り状態で、乗客2,3人である。旅費、宿泊費の総額費用は膨大になった。
そんなことを言っている場合ではない。私は、そのために日頃の節約をしている。お金を使う時に使わないから、人生の価値が棄損する。
何時お金を使うのか、「今」でしょう。歳月人を待たず。「ただいま、正になすべきことをなせ」である。
馬場恵峰書 2017年
2021-02-03 久志能幾研究所通信 1909 小田泰仙
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