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2021年1月15日 (金)

極楽運転への遠い道

過去の否定が極楽への道  自動車部品の開発へ

 

 極楽への到達には、長い寄り道が必要であった。極楽には地獄を通らないと到達しない。私の極楽運転への道は、1991年のバブル崩壊から始まった。バブルが崩壊した後、私の所属する機械事業部が急速に失速して売り上げが壊滅的に激減した。今の新型コロナ禍での大不況と同じであった。

 私はその年、課長になれる予定であったが、その事業部の縮小で課長になるポストないとのことで、自動車部品事業部に異動して課長となった。そこで四駆用の部品の開発を担当することになった。バブルの崩壊とともに、私の約20年間に及ぶ一つの時代が、日本経済の地獄の始まりで終焉した。それが私の極楽への道の第一歩であった。

 

過去の時代の否定

 新しい部署の設計方針では、高価な研削加工をできるだけ使わない方針であった。原価低減活動にて、研削加工の廃止が真っ先に槍玉に上がるのを見て、ショックを受けた。当社はその面ではトップシェアで、国外でも名が知られている。そのお膝元の自動車部品開発部では、その加工がコスト面で毛嫌いされている。そんな情報は同じ会社の機械開発部の部員には伝えられていない。ひたすら従来の延長線上の開発が推進されていた。これは経営の問題である。技術者の問題ではない。

 

会社内の文化の違いに戸惑う

 またここで今までの「しきたり」を否定されて出鼻を挫かれることになる。部下の仕事で何か指摘をすると「自動車部品事業部ではそんな仕事のやり方はしていません」と。

 図面の描き方の規格でも、会社独自の規格はなく、客先の図面規格に従っていた。機械事業部では、独自の製図規格を制定して運営している。まるで会社が違うような有様で、つくづくと社内に2つの文化があることを認識した。機械事業部にいると、絶対に思いつかない発想である。いかに蛸壺に篭って、仕事をしてきたかを思い知らされた。これはどちらの事業部にも言える事で、会社改革の支障になっていた。

 

テストドライバー資格

 この部署では、開発した部品を評価するための運転技量が問われる。そのため設計者は全員、試験車運転資格(テストドライバー)を取らされる。この事業部への「新入社員?」である私は、実地訓練を受け、この資格を取得した。その資格で問われる内容は、人生の安全運転と同じである。

 当時、上級資格を持った部下の指導下で訓練をした。実技訓練で部下が助手席に座り、運転訓練を受け、部下の教官から「課長は学習能力がないですね」と嫌味を言われながらの運転訓練である。たとえ部下でも、車上では教官である。何を言われても反論できない。その資格取得後は、安全を最優先に心がけていたので、小さい事故はあったが、大きな事故には遭わずに無事過ごす事が出来たと感謝している。

 

資格を取得

 取得資格は初級の資格であったが、それでも助手席に指導教官が座って、親会社の富士山麓のテストコースで、当時、担当部署で開発中の部品を搭載した試験車の運転が出来た。トヨタ本社のテストコースで、指導教官の横で時速200キロの走行体験もした。今にして思えば良い経験であった。中級の資格取得に挑戦したが、時間切れとなった。

02_04  イメージ図(日本自動車研究所のテストコースの写真を借用)

 

人生道の疾走

 人生の街道を自分の体という乗り物で疾走するには、安全が最優先である。それは自動車の運転で問われる課題と同じである。その中でも、普通の運転者より高い技量が求められる試験車運転資格(テストドライバー資格)での最優先事項は安全である。試験車運転資格試験で問われるのは、3Sの能力である。3Sとは、安全 (Safety)に、素早く(speedy)、滑らかに(smooth)である。これを言い換えると、次の表現になる。

 

 自分の子供が急病になって、車で病院に連れて行かなければならない。焦って安全運転を怠れば、事故で病院にたどり着けず、子供が死んでしまう。低速で走れば、時間がかかり子供が死んでしまう。スピードを出して乱暴に運転すれば、振動や衝撃で容態が悪化して、子供は死ぬ。安全に、素早く、滑らかに運転して、我が子を病院に送り届ける。これがテストドライバーに求められる能力で、これがないと部品の評価はできない。

 

 これは全ての仕事のやり方を象徴している。子供を仕事の置きなおすと、仕事の心得そのものである。この資格の実技試験で、急ブレーキを踏むと一発で不合格である。なぜなら危険の予想が出来ていないとの判定である。事前に危険を予測できるのに、それを怠った結果が急ブレーキである。要するに安全確認の心構えができていない。

 

 その他の技術として、3秒前に方向指示をしてから車線変更をする。要するに、自分や組織は何処の方向に向うのか、周りにも部下にも、適正な時期に示せ、である。

 サイドブレーキを引く時は、カチャカチャという音を立てず、ノブを押しながら引け。つまり、車をいたわり優しくして操作をせよ、である。仕事や周りへの心配りである。

 曲がる時は、右よし左よし後方よし、と呼称する。安全の自己徹底である。仕事でもチェックリストを使うのと同じである。今でも私は呼称運転をしている。

 

2021-01-15   久志能幾研究所通信 1890  小田泰仙

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