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2018年4月29日 (日)

眼の命を慈しむ(6/9) 白内障手術を見学

白内障手術見学のお誘い

 三好先生宅訪問の前日(2013年10月24日)、三好先生から電話があり、「明日、早めにお越しになれば手術の見学をしていただいてもよいですよ」とのお話があった。一瞬、えー! と思ったが、折角のお話なので見学させていただくことにした。私の人生方針として「来るものは拒まず」である。でも手術の見学など気持ちが悪い、恐ろしいとの思いがあり複雑な心境で福山市に向った。

 

手術室へ

 三好眼科に到着すると、お迎えの看護婦さんが待っておられた。看護婦さんに手術着に着替えるため別室に案内されて、着替えて手術室に向った。手術室は2台の手術台が設置されおり、三好先生が手術の真っ最中であった。目礼をしてテレビ画面に映る手術の状況をしばし見学した。しばらくして三好先生から「こちらに来て顕微鏡で見なさい」と言うことで、手術中の先生の真横に座り、モニタの顕微鏡で直接、手術の経過を見させていただいた。2人の方の手術の全過程を見させていただいた。先生はもっと見て欲しかったようだが(ある意図があって)、手術を受けられている方に対して少し気が引けたので、直接見学したのは2人の手術だけで、後は手術室内の3mほどの至近距離の横に座って、モニタで三好先生の手術を真横に見ながら、計10名ほどの方の手術を見学させていただき人生を学ばせていただいた。

 その後、香川大学の女医の先生が同じように手術を見学されていた。この状態を後進に見せるのは後進を育てるためのシステムとして素晴らしい。

 

白内障手術状況

 患者は片目を眼帯に覆われて、看護婦さんに両手を引かれて静々と手術室に入ってきて、手術台に横たわる。その後、術前処置を受けて10分ほど横たわって待機している。もう一つの手術台で前の患者の手術が終ると、三好先生は、待機している患者側に来て次の手術を開始する。手術は10分ほどで終わり、素人が見ると極めて簡単に見え、流れ作業のような感じであった。先生の足元にはペダルを含めて27個の足スイッチが並んでいる。それを駆使しながら微細な目の手術をされる。最初に眼球を覆う膜を切開して、前嚢の膜を壁紙のはがしのように、そぉーとめくる。

 この手術の鍵は足の微妙な使い方にある。先生はその昔、エレクトーンを習われたとか。これが役立っている。レーザーのノズルを水晶体の横から差し込み、レーザーで水晶体を砕きながらその破片をノズルから吸い込む。その微妙な加減を、足のペダル操作で調整する。砕かれた水晶体の破片がそのノズルから吸い込まれていく。水晶体が、宇宙空間に浮く隕石の破片のように、ノズルに吸い込まれていく。まるでSF映画の不思議な映像を見るようであった。「この操作が簡単にみえて難しいのですよ。これが手術の要なのです」と先生の解説である。目の膜が3μmしかなく操作を誤ると破ってしまうとか。

 水晶体を取り除いた後、折りたたんだ眼内レンズを挿入する。レンズのアームは徐々に開いて目の中に納まる。それで手術は完了である。簡単に見えるが、入れるのも、後からの微調整も高度の技術を必要とされる。

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 大鹿哲郎教授監修『眼手術学』文光堂より

 

 以前、松本明慶先生も三好先生の手術を見学されて、その時、「この手術の鍵は足の操作ですね」とずばりと指摘をされた。さすが職人同士で通じるものがあったとか。それ以降、松本明慶先生に三好先生が信用してもらえるようになったという。

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 手術風景 三好眼科のHPより

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 足元に27ケのスイッチ。大鹿哲郎教授監修『眼手術学』文光堂より

 三好先生は約90分間で、10名の患者の手術を工場のライン作業のようにこなされた。横で支援している医師と看護婦の連携も素晴らしい。今日は18名の手術をされる予定とか。このペースでは過去52,000件の手術実績も納得である。

 

佛の掛け声

 手術が終ると、三好先生は「手術は大成功ですよ。もう大丈夫」と患者に声をかけていた「後は神様が直してくれます」。この言葉には感銘した。あくまで謙虚な先生である。手術などは見たくても見られないもの。それも世界一の神の手を持った先生の手術である。そのご縁に感謝です。

 

みほとけの見守り

 手術室の壁上部には松本明慶先生作の仏像写真が、先生の手術を見守るように10枚ほど掲示されていた。手術室の奥のガラス越しの部屋に、松本明慶先生作聖観音菩薩像(全高1.65m)(次図)が「手術が安全に行われることを祈願して」安置されて、手術室内を見守っていた。聖観音菩薩は人々の苦悩の叫び(音)を観じると、慈悲の心をもって、直ちに救済に駆けつける御佛である。この佛像は2002年度京都仏像彫刻展で第一位の京都府知事賞に輝いた作品である。

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戒めの言葉

 手術室入口横の壁にはスターウォーズのヨーダの写真があり、ヨーダの発する言葉が医師への戒めの言葉として10枚ほど掲示されていた。

 曰く「医師は謙虚であれ」「自然の真理を悟れ」(言葉はうろ覚えですが、自己を戒める言葉が列挙されていた)。自分の戒めの言葉として使いたい表現が多かった。

 

「手術十戒」(三好眼科手術室に貼ってある)

  (下記はネットで掲載されていた情報。私はうろ覚え。)

  1. 「どのような手術でもベストを尽くす」
  2. 「己の力を過信しない」
  3. 「1stepを三度確認して、次のstepに移る」
  4. 「術前、術中、術後の軽口はこれを厳に慎む」
  5. 「患者が手術室を出るまで、決して気を抜かない」
  6. 「Nurseを叱らない」
  7. 「11時の皮質を一部残すことは恥ではない」
  8. 「決してイライラせず、急ぐことなく落ち着いて手術する」
  9. 「常に一歩退いてよく考えること」
  10. 「神への祈りを忘れない」

これらはどんな仕事にも通用する言葉である。私も仕事で使いたい。

クリーンルーム

  この手術室はクリーンルームと同じ基準で建築されているとのこと。クラス1,000のクリーン度である。私がNEDO(通産省の外部団体の超先端加工システム組合)の関係でエキシマレーザ用の超精密加工機の開発とそのためのクリーンンルーム建築に関与した(1991~1992年)。それでその費用が半端でないことを知っていた。そのクリーンルームは、クリーン度10,000であった。一般的な事務所のクリーン度は1,000,000である。一般的な手術室がクリーン度50,000であるので、いかに三好先生が手術室室に金がかけているかが分かる。人の眼に関する部屋のクリーンルームの建設にはお金がかかるだ。 

クリーン度の定義

 クリーンルームの清浄度は「一定の体積中の基準の大きさ以上の塵埃の数量」で示される。これは1フィート立方中(28.8リットル)に0.5ミクロン以上の微粒子が何個あるかで表す。クラス1,000とは1フィート立方中に0.5ミクロン以上の微粒子が1,000個以下であることを示す。数字が小さい程ゴミの無い空間になる。

 0.5ミクロンとは、光学顕微鏡で見える最低限の大きさである。バクテリアの一番小さいサイズである。一般的に「雲の上」の空気の状態である。要は天国に近い状態(?)である。

後日談

 今回の眼の手術のご縁で、もっと自分の体を勉強しようと思い、大鹿哲郎教授監修『眼手術学』文光堂(30,000円)を購入した。医学書が高いのは閉口だが、白内障手術の理解にはよい教材であった。自分の体を医師に預けるにしても、その手術に関する基本的知識は持っていたほうが良いと思う。

 後で一冊20,000円の同シリーズの医学書を2冊も追加購入することになり、結局7万円の出費となった。この医学書で貴重な情報が得られたので、惜しい気はしなかった。こういう情報を自分の体験で得ようと思ったら、7万円では得られない。図書には、著者の経験知が詰まっている。それからすると、安いと私は思う。

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 大鹿哲郎教授監修『眼手術学』文光堂

 

2018-04-29

久志能幾研究所 小田泰仙  e-mail :  yukio.oda.ii@go4.enjoy.ne.jp

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