新人は弘法大師を目指す
4-6.入社後の教育
1)「バリアフリーお遍路の旅」新人研修
ネッツトヨタ南国の1ヶ月間の新人研修の最後に、4泊5日「バリアフリーお遍路の旅」研修がある。新人が全国から応募した視覚等に障害がある方とペアとなって、手取り足取りお世話をしながらの、四国霊場を回る研修旅行である。泊まる宿は、民宿や普通の宿である。当然、バリアフリーの設備が完備されているわけではない。全盲の方や障害のある方のお世話するのは初体験の新人ばかりである。
彼らは、失敗のないようにと一生懸命にお世話をするのだが、当然、ミスもして全盲の方に辛い思いをさせることもある。トイレでの粗相もあろう。しかし、奉仕だけがこの研修の目的ではなく、真の目的は別である。24時間5日間、全盲の方をお世話する間に、人への真の心配りに気づかせる実習である。障害者だからといって、全てをサポートして欲しいわけではない。彼らにも人間としての尊厳があり、できるだけ自分で処理をしたいのが本能である。構いすぎは、却って彼らの自尊心を傷つける。ほんの少しのサポートが、彼らの心の琴線に触れるおもてなしとなる。
「あなたが、私が不自由そうだな、と感じることがあったら、そのことだけ、ほんの少し力を貸してくれればいいのですよ」の言葉は、一緒に旅をして、お風呂で背中を流し、布団を並べて寝る前に話し合う中で、心を開いて始めて語られる仏様のような言霊である。
「バリアフリー」の言葉の意味は何か、相手が求めていることは何か、それを感じ取り、実践するために、先入観、固定観念という心のバリアを捨てることの大切さを体験する。
研修後の体験発表会では、涙、涙の報告である。今後の人生を、真心でお客様や仲間、家族と向き合い、生きていく決意をする新人たちの姿がそこにある。
弘法大師になりきる修行
私はこの研修を弘法大師との「同行二人」になりきる修行だと解釈した。お遍路さんは、その傍に弘法大師が同行してくれていると信じて霊場を巡る。真言宗では、空海が山岳修行をしていた時代に遍歴した場所は、四国八十八箇所に代表される霊場として残っている。四国八十八箇所霊場を巡るお遍路では、「南無大師遍照金剛」を唱えながら巡礼する。
「南無」とは弘法大師空海に帰依するという意味である。「遍照金剛」の名号は、空海が唐に留学し、真言密教を極めた時の灌頂名で、「太陽のごとくすべてを照らす慈悲と、人を幸せにする仏さまの砕けることなき智慧の持ち主」という意味があり、大日如来の別名でもある。
お遍路さんの白衣の背中にも「南無大師遍照金剛」の文字を背負う。お遍路さん同士での挨拶も、この言葉を使う。歩き遍路で「南無大師遍照金剛」を唱えるのは、自分の後ろには大日如来が控えているから、大師と二人で同行してお遍路を歩くという意味がある。
同行する弘法大師は、けっして出しゃばらない。困った時にだけ助けてくれる存在である。ディーラマンとして、弘法大師のような存在を目指して修行するのが、「バリアフリーお遍路の旅」研修だと私は解釈した。
車を買うのも一つの人生
車を買う人は、趣味の世界もありディーラマンよりも知識を持っている場合が多い。それがディーラマンから知っている車の知識など押し付けがましい話は聞きたくない。己に足りない情報だけを教えてくれれば良いのだ。車を買うのも一つの人生である。暗夜を歩く人生と同じである。困った時に、そっと助けてくれれば良いのだ。車を買ってからその販売店とは10年間の長いお付き合いの人生が始まるのだ。
暗夜に自分の人生を歩む
人生を歩くとは、暗夜を手探りで歩く様に似ている。すべて手を引かれて行けば、自分の存在意義がない。自分の尊厳は守りたい。失敗してもいいから、自分の足でそろそろと歩む。必要な時には、佛様が助けてくれると信じて。「そういう佛様のような存在になれ」というのがこの研修があると思う。新人がこの研修の本当の意味を知る時をネッツトヨタ南国の社長は、首を長くして待ち望んでいるのだろう。
管理職の立場になって
新人が後年に管理職の立場になった時、この部下の指導で弘法大師のような存在の価値を悟るのである。その時、バリアフリーお遍路の旅」研修の真意に気が付くのだ。
極楽とは
新人は、お客様のためにと発心して、お客様のために修行をして、菩提の修行をして、涅槃の境地に達する。それを「バリアフリーお遍路の旅」研修で垣間見る。
菩提とは悟りの境地、涅槃とは全ての煩悩から解脱した状態である。新人は涅槃を目指す。我々も煩悩を解脱して生きていきたい。お客様の喜ぶ顔が目指す極楽涅槃である。
馬場恵峰書『四国八十カ所の発心・修行・菩提・涅槃の四道場に読まれた歌・各寺の本尊集』(2016年)より(現在、出版準備中)
松本明慶仏像彫刻美術館の許可を得て掲載しています。2018年3月21日撮影
日本で一番大切にしたい会社
『日本でいちばん大切にしたい会社 2』の著者坂本光司浜松大学教授は、講演「日本でいちばん大切にしたい会社」(KBC主催の講演会 2011年4月25日 岐阜グランホテル)で、このお店を訪れて、「なんともいえない温かい雰囲気を感じた」と述べられていた。このオーロラを発するおもてなしの温かさは、この研修の成果なのだろう。ネッツトヨタ南国の社員が佛様のように見えたのだろう。
2)職場実習
入社後は「教えない」が基本。社員が「気付き」「考え」「行動する」まで待つ風土が、社員が最大限の能力を発揮する風土を育てた。
この手法は、直ぐに結果を求める欧米式の経営では、絶対になりたたない。促成栽培された生物は成長が早いが、衰退はさらに早い。それに対して、じっくり育てられ、風雪に耐えた生物は長生きで、元気が良い。
南方のラワンの木は、生長が早い。それゆえ、安い建材として広く使われている。この木は直ぐに大木になるが、自身の体重を支えきれず、倒れてしまう木も多い。なにか現代の若者を象徴している。
「何かのマニュアルを与えればミスは確実に減るでしょうし、売り上げは簡単に伸びるでしょう。しかし逆に従業員の思考が停止してしまう。お客様へのよりよい応接を自分自身で模索するプロセスや失敗の中にこそ、大事な気づきがある。そんな経験と努力を通じて従業員には人生の勝利者となって欲しいのです」(大原光泰氏)『PRESIDENT 2011年5月2日号』
あなたの部下、子供にはどんな教育を施していますか?
自分は、自分に対してどんな教育をしているのか?
自分は、人に助けられるよりも、黙って見守って必要な時に助けてあげる存在になりたい。
2018-03-23
久志能幾研究所 小田泰仙 e-mail : yukio.oda.ii@go4.enjoy.ne.jp
HP: https://yukioodaii.wixsite.com/mysite
Blog: http://yukioodaii.blog.enjoy.jp
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