誘導弾文書で賞金100万円を射る(改定)
F= m・α : ニュートン力学の力
E=m・ v 2 /2 : 運動のエネルギー
上記はあらゆる物質の力、運動エネルギーを表す式である。これはあくまで物質の持つ力、エネルギーを表す式であるが、自然現象だけでなく、他の技術現象、社会現象、文学芸術作品、文書にも当てはまる式だと考える。
この式を科学技術英語、論文に例えれば、質量mはその書類の内容に相当し、加速度αは文章の修辞、論理構成、展開方法、魅力度に当てはまると考えられる。文書が他人へのコミュニケーション(情報伝達)である以上、その訴えたい事項、伝えたい内容の力は上記二つの要素の積であると考えた。これを考慮していない書類は、伝えはしたが、相手の心に達していない文書である。
文書が持つエネルギー
コミュニケーションとしての文書は、その内容と修辞のありかたで、その文書の持つ力とエネルギーが全く異なる。いくら内容が優れていても、その記述方法(修辞法・論理構成)がお粗末では、著者の意図が、オーディエンス(読者)に届いても、心までは達しない。またいくらその修辞法が優れていても、内容が薄っぺらでは、その相手の心に響かない。文書として、この両者のバランスの重要さを上記の式は示している。
例えて表現すれば、己の思いを込めた矢を射る時、科学的手法(テクニカルライティング)の技術を最大限に駆使してその文書の威力を高め、標的のど真ん中に命中するように、矢が飛ぶ軌道精度を高める、である。
私は社内の教育講座で、早稲田大学教授・篠田義明先生の科学工業英語(テクニカルライティング)に初めて接して、強烈な衝撃を受けた。篠田教授のような説得力ある、論理的な講義は初めてで、思わず引き込まれてしまった。それ以来、約30年間弱にわたり、私の仕事のバックグラウンドとして学び続けることになる。ミシガン大学でのセミナーにも2回受講し、会社勤めの間もこの手法を学びつつ、部下や新人教育の講座でも指導をすることになった。このご縁で科学工業英語検定試験1級(30年間で総計500人弱しか合格しない)にも合格して、自信をもって仕事をすることもできた。私はこの学びで、ビジネス戦争で戦うための文書という武器を手に入れた。
懸賞論文で最優秀賞受賞
このスキルを活用して、前職の「会社創立50周年記念論文」募集に応募して、160通中で最優秀賞に選ばれた。最優秀賞を標的として「ターゲット書類」を射った経緯が上記である。この副賞として欧州国際工作機械見本市(EMOショー)見学と、フランス、イギリスの博物館見学(稟議費用100万円)の機会を得た。これも科学工業英語の日本の第一人者の先生から直接薫陶を受けたのが最大の勝因である。そのご縁で英語の神様の後藤悦夫先生とのご縁ができ、ますます私の英語力、文章力のスキルアップの支えとなった。後藤悦夫先生は若いころ、手術のため2日間だけ英語に接しなかったことがあるが、それ以外50年間、毎日英語に接して勉強をしてこられた。ミシガン大学夏季セミナーにも自費で10回も参加されているミシガン大学夏季セミナーにも自費で10回も参加されている(総費用約1千万円)。前職の会社でも篠田先生の後任として、10年間程この科学工業英語講座で教えて頂いた。
断定的な言い方の好き嫌い
篠田教授の講義は、断定的、論理的で大変分かりやすいと私は感じたが、人によっては、ハッキリと言いすぎ、押しつけがましいとの感じた人も多くいた。そのため、篠田教授の評価は好き嫌いで極端に分かれる。面白い現象である。世の中を象徴しているようだ。嫌いな人は、日本の波風を立てない温厚な世渡りをして、欧米式の白黒を明確にする社会に合わない人が多かった。それを思うと、私の文書は、先生の影響で欧米的の白黒の明白なキツイ文書のため、皆さんから煙たがれたので、出世に響いたかもしれない。前職の会社は温情的なのは良いが、ぬるま湯的、決断の先延ばしが常のスタイルであった。そのため、世の中のエゲツナイ金儲け主義に徹しきれず、グローバル経済主義の荒波に押し流され、65年の歴史に幕を閉じた。
エピソード
面白いエピソードとして、私がこの懸賞論文の優勝を自分で予言したとされた。私も社の技術広報誌の編集委員で、応募論文を審査員の一人として担当分の論文を審査した。私の書いた論文と比較すると、審査した論文は格段の格差があり、文書品質が落ちるのである。これで、自分の論文の上位入選を確信した。それを編集委員会の懇親会の場で、話したら、私が優勝を予言したとして有名になってしまった。それほどに、皆さんは文書の論理構成を学んでいないので、論文として体裁がなっていなかった。
後日談
この論文のテーマは「人財育成への設備投資」であった。この論文の受賞後、きっと社長や役員からヒアリングなどがあり、社内教育システムが改善されるものと期待していた。そのヒアリングが全くなかった。幸いなことに教育部が科学工業英語の教育システムを充実させた。それは感謝である。
後日、「会社創立50周年記念式典」があり、永年勤続者、業務での功績者、等の表彰があり、そのあと祝賀パーティとなった。その場で社長が通ってきたが、私の酒で赤くなった顔を見て「やあ、君の顔はいい顔色だね」と言ったきり向うに行ってしまった。直前の式典で、論文最優秀の表彰状を手渡した私を忘れている。この件で、今の会社の限界を悟った。この会社の行く末を心配したが、20年後にその危惧が当たった。ターゲット文書で、相手の心臓に命中させても、相手が不感症だと、いくら良い弾を撃っても効果がないことを悟った。世の中はうまくいかないもの。
「会社は人財育成が大事だと、どの経営者も口を酸っぱくして言うが、現実にそれを実行する会社は稀である」とドラッカーも達観してその経営書で記述している。教育費は、予算削減の時、真っ先に削減される。それを論文で訴えたが、現実は変わらないことを、この式典で思い知らされた。しかたがないので、後年、自分が技術管理部署の課長に異動になってから、自分で技術部の教育システムを構築して、それを実行・運営した。自分でも7講座程を持って、自ら新入社員教育、中堅社員教育を陣頭で教えた。
会社が合併してから、新会社の役員・部長が私の技術者教育講座内容に干渉してきて、「技術以外の余分なこと(金にならないこと)は(時間の無駄だから)教えるな」。「会社の歴史」、「修身」、「交通安全の科学」などの講座が中止に追い込まれた。拝金主義、成果主義の氾濫である。旧の会社で4年間続けた講座である。吸収合併された身で、強くは反論できず、宮仕えの身で吸収合併された方の辛さを味わった。周りを見ても、教育など自分の成果にならないので、誰も助けてくれない。大手銀行の吸収合併で、吸収されたほうの管理職の悲哀がマスコミを賑わしていた頃である。保身の知恵はあったので、逆らって飛ばされるような愚は避けた。出来る範囲で、やれることを実行して、教育講座の運営を中心にビジネス文書の書き方の講座に集中して、新人教育を進めた。
図1 ターゲットを文書で射る
図2 ビジネス戦争の武器は文書
久志能幾研究所 小田泰仙 HP: https://yukioodaii.wixsite.com/mysite
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