自動車メーカのDNA(改題・改定)
企業は人と同じで生まれた時のDNAを受け継いで活動している。その因果が30年後、50年後、100年後に華が咲くこともあれば、毒になって全身をめぐるときもある。著名自動車メーカの社是、経営理念を比較検討して、社是の重みを実感している。
聖光寺での交通安全夏季大法要
長野県茅野市の蓼科山聖光寺は、昭和45年7月9日に奈良薬師寺別院としてトヨタ自動車と関連会社が施主となり、交通安全祈願と事故で亡くなられた人の供養、負傷者の早期回復祈願のために建てられたお寺である。毎年恒例の七月の夏季大祭が執り行われ、17日は交通事故者慰霊萬燈供養、18日に交通安全夏季大法要が執り行われ、トヨタ自動車の豊田章一郎名誉会長、内山田会長、豊田章男社長をはじめ関係役員とトヨタ自動車販売店協会などから多数の方々が出席される。協豊会からは会長と各地区の代表副会長が出席し、会員の皆様の交通安全を祈願される。
交通安全を祈願 ~蓼科山聖光寺夏季大祭~
http://www.kyohokai.gr.jp/news/times/2015_shokoji.html
この大祭は、これは他の自動車メーカではあまり聞いたことの無い行事である。これは豊田佐吉翁が、トヨタ自動車の創業者の豊田喜一郎氏に、「俺は織機で御国に尽くした。お前は自動車で御国に尽くせ」との遺言と豊田綱領に「神仏に尊崇報恩感謝」と記したように神仏への敬いの心の現われである。豊田佐吉翁の頭には金儲けではなく、報国の精神があり、結果として事業が成功したのであって、金儲けがうまかったから、成功したのではない。
豊田綱領 (豊田の5つの精神)
1.上下一致、至誠業務に服し産業報国の実を挙ぐべし
1.研究と創造に心を致し常に時流に先んずべし
1.華美を戒め質実剛健たるべし
1.温情友愛の精神を発揮し家庭的美風を作興すべし
1.神仏を尊崇報恩感謝の生活を為すべし
昭和10年10月30日、豊田佐吉の6周忌にあたって、全従業員が整列した佐吉翁の胸像まえで、佐吉翁の信任が厚かった取締役支配人・岡本藤次郎が朗読・発表(試作車を完成させ、国産自動車生産の目処がたった時)
社是とミッションの文化の違い
社是に「神仏を尊崇報恩感謝の生活を為すべし」とはなかなか書けない言葉である。その精神がトヨタのDNA中に流れている。目には見えないご先祖や神仏を大事にの精神が、今のトヨタを創った。欧米の企業の会社理念(社是)には、神仏への感謝、ご先祖、お国へのご恩返しの思想はない。あくまで個人主義の延長で、会社としては会社主義の行き着く先が成果主義、グローバル経済主義で、結果として富の偏在、格差の拡大である。日本の主要な自動車メーカの社是を比べてみると、日産とマツダの社是に、ミッションという言葉が目に付く。日本企業の社是とは違和感がある。共に欧米の企業に乗っ取られた会社である。それが故、欧米の価値観が社是に表れている。
ミッションから生まれる文化
ミッション(mission)とは、ラテン語のmittere(ミッテレ。送る、つかわす)から派生した語であり、人や人のグループに与えられた、特に遠方の地へ行き果たすべき役割、使命、任務である。イエス・キリストが弟子たちに与えた、遠方へ行き福音を広く人々に伝えよとの使命には、強い目的意識、(自分を超えた何かによって宣告さた)強い使命感がある。ちなみに日本仏教では強制的な布教は禁じられている。ミッションと聞くと殉教者的な犠牲を強いられる印象があり、日本では違和感がある。リストラ後の日産を辞めた社員の言動を見ていて、つくづくとそれを感じる。結果として日産は、創業90年後に狩猟民族のルノーに内部資産を喰い尽くされつつある。最近は三菱もその魔の手に落ちた。
日産は財閥総裁の鮎川義介が金儲けのために、図面も生産設備もフォードから買ってきて工場を立ち上げた。三菱は岩崎弥太郎が明治初期に、政商として暗躍して巨万の利を得て、その金で創業した財閥の一企業である。お国の技術高揚のために、図面も設備も一から自分たちの手で作り上げたトヨタとその志が違う。日産にも三菱にも、金儲けというミッションはあるが、報恩という思いはない。
社是から生まれる文化
社是とは社員の目指すべき行動規範で、自分達に夢に実現のため会社としてやるべき規範である。「是」とは正しいこと、会社として正しい道を示した行動規範である。神仏を敬いご先祖を祭り、自主的に仕事に仕えて社会に奉仕をする。結果として会社の業績が向上し自分達にも返ってくる。それと比較して神からの強制で社会に奉仕をする行動を比較すると、その差がお墓つくりに重ね合わせて見ると興味深い。
自動車メーカ各社の社是比較
トヨタ以外の車メーカの社是からは、感謝という思いが感じられない。「オレ達が偉いから、車という最高の製造物を君たちに作ってあげるのだ」との上から視線が伝わってくる。日産のビジョン&ミッションは、提供、寄与、プログラム開発とかで、何かヒトゴトである。過去の遺産を食い潰して、結果としてトヨタより儲かっていない日産のゴーン社長が、10億円の報酬では違和感がある。強欲の極みで格差社会の象徴のように感じる。「機会を提供する」のではなく、「付加価値そのものを提供して欲しい」とユーザは望んでいる。
日産のビジョン&ミッション
ミッション
「未来への投資」
未来を志向する人々が、“どのような社会に生きたいか”を実験し、体験し、思索する機会を提供する
目標
ミッションを実行することにより、社会的価値の創造に寄与する
活動方針
・多様性を促進するプログラムを開発する
・社員の社会参加を促進するプログラムを開発する
http://www.nissan-global.com/JP/COMPANY/MESSAGE/VISION/
マツダの社是
Vision(企業目標)
新しい価値を創造し、最高のクルマとサービスにより、お客様に喜びと感動を与え続けます。
Mission(役割と責任)
私たちは情熱と誇りとスピードを持ち、積極的にお客様の声を聞き、期待を上回る創意に富んだ商品とサービスを提供します。
Value(マツダが生み出す価値)
私たちは誠実さ、顧客志向、創造力、効率的で迅速な行動を大切にし、意欲的な社員とチームワークを尊重します。環境と安全と社会に対して積極的に取り組みます。そして、マツダにつながる人々に大きな喜びを提供します。
http://www.mazda.com/ja/about/vision/
ホンダの社是
基本理念
人間尊重 自立、平等、信頼
三つの喜び 買う喜び、売る喜び、創る喜び
社是
わたしたちは、地球的視野に立ち、世界中の顧客の満足のために、質の高い商品を適正な価格で供給することに全力を尽くす。
運営方針
・常に夢と若さを保つこと。
・理論とアイディアと時間を尊重すること。
・仕事を愛しコミュニケーションを大切にすること。
・調和のとれた仕事の流れを つくり上げること。
・不断の研究と努力を忘れないこと。
http://www.honda.co.jp/guide/philosophy/
下記の三菱自動車の企業理念には、感謝の念が全く感じられない。何度も社会を裏切ってきて、その言葉は白々しい。冒頭の言葉に、「走る歓び」とあるが、顧客にとって、走る歓びよりも、安全が最優先である。車は走る凶器ともなる側面を持つ製品である。大前提を間違えた会社の末路は悲惨である。親会社の三菱グループからも見放されて、2016年に外国資本ルノーの手に落ちた。
三菱自動車は創業者岩崎弥太郎の殿様商法、政商のDNAが脈々と受け継がれている。三菱は明治期の動乱に政商として、巨万の利益を得てその礎を築いた。最初に弥太郎が巨利を得たのは、維新政府が樹立し全国統一貨幣制度に乗り出した時である。各藩が発行した藩札を新政府が買い上げる政策を事前に察知した弥太郎は、十万両の資金を都合して藩札を大量に買占め、それを新政府に買い取らせて莫大な利益を得た。この情報を流したのは新政府の高官・後藤象二郎である。弥太郎は最初から、政商として暗躍した。
三菱自動車の企業理念と目指す姿
企業理念(2005年1月制定)
大切なお客様と社会のために、走る歓びと確かな安心を、こだわりをもって、提供し続けます。
大切なお客様と社会のために
お客様第一主義に徹します
お客様からご満足いただくことを最優先に企業活動を行います。そのためには環境問題への対応や安全性の追求に全力を尽くし、お客様のご満足を通して社会から信頼される企業を目指します。
走る歓びと確かな安心を
三菱自動車のクルマづくりの方向性を明確にします
三菱自動車がお客様に提供するクルマは“走る歓び”と“確かな安心”という2つの考え方を反映します。クルマ本来の魅力である走行性・走破性と、お客様にながく安心してお乗りいただける安全性・耐久性を両立したクルマづくりを行います。
こだわりをもって
三菱自動車らしいこだわりを大切にします
お客様にご満足していただけるようなクルマの新しい価値を見出し、お客様のカーライフをより豊かなものにするために、どんな小さなことでもこだわりを持って、クルマづくりに取り組んでまいります。
提供し続けます
継続性を重視します
三菱自動車は信念と情熱を持って継続的な挑戦を行うことで、三菱自動車らしさを進化させたクルマをお客様に提供し続けます。
http://www.mitsubishi-motors.com/jp/company/philosophy/
フォルクスワーゲンの社是?
フォルクスワーゲン(VW)のHPより社是を探したが、「Think People. ACTION」しか出てこなくて、これが会社の社是として存在しているようだ(2017年7月16日)。
社是に「私たちにできることひとつ一つに挑戦していきます」とあるが、今はできないことに取り組むことが挑戦ではないのか。できることだけやるなら、誰でもできる。それは朝鮮ではない。VWが利益最優先で考えて(順法精神など考えずに)今できることが、排気ガス計測の不正であったとみると、下記の社是もどきは、意味深長である。社是が会社を現す例である。
Think People. ACTION
人を真ん中に考えるクルマとして、私たちはいま、様々な取り組みを進めています。
乗る人を見つめることは、クルマの未来を見つめること。
クルマを愛する皆さんから寄せられる声をヒントに、私たちにできることひとつ一つに挑戦していきます
フォルクスワーゲンのHPより 2017年7月16日
http://www.volkswagen.co.jp/ja/volkswagen/company.html
2017-07-16
久志能幾研究所 小田泰仙 HP: https://yukioodaii.wixsite.com/mysite
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