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2017年6月17日 (土)

ブラームスホールで故人を偲ぶ(改定3)

 楽友協会資料室室長ビーバー・オットー博士との面会日前日の4月23日(日)19:30、ビーバー・オットー博士の解説で、六重奏の古楽器演奏会がブラームスホールで開催されることを公演日程表で見つけ、早々にチケットを入手して、楽友協会に出かけた。楽友協会では、年間300回程の演奏会が公演される。

 ちなみに、この時のブラームスホールのチケットは日本円で約3,000円。平日夜のウィーンフィル演奏会で、黄金ホールの特等席(前から7列目)のお値段は82ユーロ(約1万円)であった。それがウィーンフィルのニューイヤー・コンサートになるとプレミアがついて10万円。それでも手に入らないとか。今回、良き席で適正な価格で音楽が鑑賞できて幸せである。

  古楽器演奏会は総勢300人くらいの聴衆で、日本人は地元の3名と私だけ。演奏会の種類によるせいか、年配の方が大多数であった。その中、場違い服装のチャイナの若い女性3名連れがいたが、休息時間後には姿が消えた。

 

ブラームスと大垣のご縁

 ブラームスホール中央のブラームスの胸像が見守り、壁や天井から黄金の蓮の花模様がホールを厳かに照らす中、古楽器の演奏会が開演された。その演奏を聴きながら、127年ほど前の戸田極子伯爵夫人とブラームスとのご縁に思いを馳せた。

 戸田氏共伯爵(大垣藩の最後の城主)は明治天皇の命を受け、明治政府が諸外国と結ばされた不平等条約改正のため、ウィーンに日本公使として赴任して尽力をされた。その美貌と知性で鹿鳴館の華と称された戸田極子伯爵夫人は、身に着けたプロ級腕前の山田流の琴の演奏は、日本の屏風や岐阜提灯を配した異国情緒あふれる日本公使館のパーティ会場で常に主役であった。極子伯爵夫人はパーティで「六段」や「みだれ」等の琴の演奏を披露して、音楽を通して日本文化を当時のウィーン社交界に紹介した。極子夫人は、戸田氏共伯爵の不平等条約改正の活動を陰で支えた。

 戸田家のピアノ教師であったボクレット教授が「六段」等を、ピアノの譜面に採譜した。1888年、ボクレット教授はそれを『日本民謡集』として出版した。パーティに招待されたウィーン音楽界の頂点に立つブラームスが、その譜面に朱を入れたという歴史事実を、お茶の水女子大学の大宮教授が論文に発表された。その資料発見にビーバー・オットー博士も貢献されたようだ。その縁で、ビーバー・オットー博士が1987年に大垣を訪問されることになった。

 ブラームスが戸田伯爵夫人の弾く「六段」を聴き入っている姿を、守屋多々志画伯(大垣出身、文化勲章画家)が屏風絵(畳4枚分)に描き、それが大垣市守屋多々志美術館で展示されている(作品保護のため年に1~2回の展示)。

 

 戸田極子夫人は、貧乏公家岩倉具視の側室槇子(まきの方)の長女に生まれた。極子夫人の美貌は母譲りであったという。14歳で戸田氏共と結婚し、戸田氏共が米国留学中に、殿様の奥方として、また外交官婦人としての教養を、実家の岩倉邸に帰って習得した。極子夫人は琴や華道、茶道などの諸芸に励み、また英語やダンスを学んだ。それが鹿鳴館時代とウィーンで花咲くことになる。

 

 極子夫人は鹿鳴館の華と呼ばれた。鹿鳴館の華と呼ばれれるための条件は、①洋装が似合う、②英語ができる、③ダンスが上手い、④外人と物おじせずに交際できる、である。流石に公家の出で、お殿様の奥様である。129年前の極子夫人の写真を今見ても、今でも立派に通用する現代的美人である。

 なにせ当時の伊藤博文首相が、官邸主催の仮装舞踏会で、極子夫人に庭で関係を迫ったとのスキャンダルが、新聞紙面に躍ったほど。それを各新聞が面白おかしく三面記事に取り上げた事で大スキャンダルとなり、伊藤は辞任に追い込まれる。女遊びが激しい伊藤は、明治天皇からお叱りを受けて、天皇に言い訳するほど女好きだった。それだけ極子夫人は魅力的であったのだろう。それにしても伊藤博文首相は女性を見る目が高い。モニカ・ルインスキー事件で実習生に手を出し弾劾寸前まで追い詰められた元クリントン大統領より、女性を見る目が上である?

 

大垣市守屋多々志美術館 HP lwww.city.ogaki.lg.jp/0000002019.htm

 (リンクが何かの事情で貼れません。「大垣市守屋多々志美術館」で検索ください)

 

 私のピアノの先生である河村義子先生は、この物語をコンサート「ウィーンに六段の調」として過去8回開催して大垣の歴史の広報に尽力されている。このご縁もあり、私は2017年4月にウィーンに飛んだ。

このコンサートの模様はyoutubeにアップされている。

https://www.youtube.com/watch?v=FaSqfewdp-U

 

オットー博士による古楽器演奏の解説

 博士の解説はドイツ語であったので、全く理解が出来なかったが、声に張りがあり名調子である。公演日程表で見ると、かなりの頻度で解説をされている。

 博士は舞台の最前列1番目に座って、舞台と観客を見守っていた。その隣に奥様(後で知った)が座っていて、それから4人おいて私の席であった。自由席であったのでよき席を確保出来た。

 休息時間に日本人の婦人の方と会話を交わしたら、博士と知り合いとのことで、博士の奥様に紹介してもらい、挨拶をして30年前の博士の写真をお見せした。昔の博士の写真に驚いてみえた。良きご縁でした。演奏会後、博士と名刺交換をしたが、演奏会での取り込み中で、詳細のお話は週明けの月曜日でということになった。

 

チェンバロの位置付け

 古楽器演奏会と現代ピアノ演奏会とで、チェンバロの役割がかなり違う。チェンバロがピアノに進化を遂げて、演奏会の主役に出世した。古楽器演奏会の場でのチェンバロは繊細な音ではあるが、迫力が無い印象である。古き良き時代の宮廷音楽会の雰囲気を味わったようである。

 その繊細な音は、当時の宮廷のサロンの雰囲気にはマッチしていたようだ。チェンバロ用に書かれた楽譜を演奏するとき、チェンバロに限界を感じてストレスを感じるピアニストも多い。その一方で、チェンバロは根強い人気もあり、現代でも名工によって製作が続けられている。

 古楽器の弦楽器も同じく、現代のバイオリンとは隔世の感がある。今のバイオリンは大きなホールや広い場所での演奏でも、迫力ある演奏を聴かせる。チェンバロ・古楽器の弦楽器とバイオリン・ピアノとの協演では、迫力が全く違う。

 古楽器は中世ののどかな時代の産物である。それに合った環境で書かれた楽譜通りに演奏するのが良いか、現代の楽器の実力に見合ったように演奏するのが良いか、演奏家の間でも意見が分かれる。面白い見解の相違である。

 私は環境とその楽器が変われば、それに相応した演奏方法に変えたほうが良いと思う。本来の成長した楽器の能力・個性が発揮される演奏方法のほうが、楽器もホールも喜ぶはず。建築家が心血注いで設計したホールにも魂が籠っており、ホールの神様も喜ぶはずだ。

 古楽器の本体材質や弦等の材質は、昔から比べると大幅に進歩している。昔の小さいサロンで演奏する場合はよいが、今の大ホールで演奏すると力不足が露見する。私はブラームスホールの最前列で聴いたから感動したが、遠くの席でならどうだったのだろうか。

 

楽器の器格と人格 

 チェンバロはないと寂しいが、大きな音を立てるとうるさがられる楽器で、演奏の立場が難しい。まるで人が人格者に成長しないと、大きな声でわめくと下品と思われると同じようだ。それ相応の人格(楽器の格)がないと、声量を上げても人の心に響かない。チェンバロがピアノに脱皮して、現在のピアノになるのには長い年月を要した。まるで人の成長のようである。

 

 経営とは、持てる資源(人、モノ、金、情報、時間)を最大限に活かして、付加価値を創造して、社会に貢献する仕事である。経営の中で、最大の資源である人財を育てるのも大きな仕事である。音楽演奏も経営である。演奏家、楽器、ホール、楽譜の能力を最大限発揮して、聴衆に喜びと感動を与え、人生に生きる喜びという付加価値を与える創造の仕事なのだ。

 

 2017年6月5日、大垣市民病院の広い玄関ホールで、「院内ふれあいコンサート」が開催された。河村義子先生の電子ピアノと天野千恵さんバイオリンの協奏であったが、ピアノだけが電気的に拡声されていた。バイオリンは生の音で、その音色はどんどんホールに広がって出ていき、聴いてもらうのがうれしくて音が舞っているようようだ。バイオリンの音色が広い玄関ホールによく響き渡っていった。電気楽器や古楽器の弦楽器ではそうはいかないようだ。

 

図1 コンサート「ウィーンに六段の調」で使われた琴(2014年10月25日)

   ブラームスが奥の椅子に座っているとして、椅子が置かれている。

   椅子の上は、ブラームスが朱をいれた楽譜が掲載された本の表紙

図2 戸田極子伯爵夫人(影山智洋氏蔵)(明治20年、30歳) 

図2 1987年に大垣を訪問したビーバー・オットー博士を歓迎する交歓会

   『ウィーンと大垣を結ぶ音楽の架け橋』1987年大垣市刊より

   挨拶は当時の小倉満大垣市長(2001年 現役で逝去)

   前列が楽友協会音楽資料館館長ビーバー・オットー博士(当時40歳)と

ブラームスと戸田伯爵夫人の歴史を発掘した故大宮真琴教授(1924-1995年)

その隣が孫の戸田香代子様

   故小倉満市長が、日本百選である市の音楽堂に、ベーゼンフォルファーのピアノ導入で尽力された。

図3 ブラームスホール  古楽器演奏会の合間 2017年4月23日

図4、5 チェンバロ(岐阜サマランカホール所蔵) 素敵な彩色、芸術作品です。

図6 ピアニスト河村義子さんの演奏(2017年6月5日)

図7 バイオリンニスト天野千恵さんの演奏(2017年6月5日)

図8 大垣市民病院ふれあいコンサート 2017年6月5日)

 

久志能幾研究所  HP: https://yukioodaii.wixsite.com/mysite

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