伝説「久志能幾 R&D語録」
失敗を経験智とする
主人公は黙って舌を噛む
アイデアを生む己を殺すことなかれ
猫に九生あり
異論があれば、代案を出す
ブルーオーシャンを目指す
カンバン方式で生産する
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これは私が「3Mに伝わるR&D語録」に感銘して、自分用に変形させて作った語録である。このオリジナルの記事は、日経ビジネス誌(1993年5月31日号)に、3Mの会社の創造性について特集が掲載された。30年前、私はこのR&D語録をB6カードに書きとめ、時折眺めていた。特にスランプ時、この言葉で自分を励ましていた。人は言葉とも出会い、励まされるのだ。これは良き出会いであった。
久志能幾研究所R&D語録
失敗を経験智とする
この世でやることが総てうまく行ったら神様だ。そんなことはありえない。やって失敗した方法は、正解ではないことが分かったのだ。それが大きな智慧である。
エジソンも9998回のフィラメントの材料選定の失敗の後に電球を発明した。9998回で諦めれば、発明は成功しなかった。
成功するまで続ければ、必ず成功する。途中でやめるから失敗となる。
松下幸之助翁
主人公は黙って舌を噛む
主人公とは自分有限会社の社長である。社長の仕事は、文殊の知恵から生まれた多くのアイデアの中から一つを賢く選択し、その実行を決断すること。プロジェクトを始めたら、「それを止めない」という決断をすること。そうすれば組織(体)が勝手に実行をはじめるので、それを黙って見ていること。自分の頭と自分の体は別なのだ。頭より体の方が偉いのだ。
幸い私の舌は百枚あるので、噛む舌が不足?することはない。私の50年前の新聞紙上のペンネームは「百舌鳥」。
アイデアを生む己を殺すことなかれ
自分こそ、創造の源である。自分があり、苦しみがあるからこそアイデアが生まれる。極楽状態に置かれなければ、アイデアなど出てこない。創造に携わる仕事をするなら、己を常に危機状態に置け。自分を殺す(自殺)ことなかれ。
猫に九生あり
九生の前には八死があった。どんなプロジェクトでも、全てうまく育つわけではない。うまくいくプロジェクトはルーチンワークであったのだ。
挑戦してうまく行かなければ、一度「死んだふり」をしてまた生き返ればよい。覚悟を決めずジタバタするから、敵から止めを刺される。熊に出会ったら、死んだふり。男は黙って死んだふり。
日本経済が停滞している原因は、企業にグローバル経済主義が蔓延し、成果主義で社員を責めているからである。社員は成果主義で毎年、自己申告制度で挑戦テーマを選択させられる。だから賢い社員は簡単なテーマに造り出し、成果が出ましたと自己申告をするようになった。
日本で最初に成果主義を導入した富士通は、導入後、その弊害に気が付いて、成果主義を止めてしまった。他の愚かな企業達は、成果主義を踏襲している。それが日本の経済停滞の大きな原因である。成果主義では、失敗の恐れのあるプロジェクトに誰も挑戦などしない。かのソニーも欧米式の成果主義経営に侵されて、失速した。かのロボットのアイボさえ、拝金主義のストリンガー社長が開発を中止させた。一事が万事である。
異論があれば、代案を出す
その案に異論があればデータで間違いを指摘せよ。
感情論ではなく、論理的に攻めよ。
ブルーオーシャンを目指す
血まみれの競争をするのは愚か。非効率で無駄な戦いを省略する。それを戦略と言う。
1960年代の後半、私は血みどろな地獄の受験戦争を一戦士として戦っていたら、安田講堂事件が起き、東大入試が無くなってしまった。その結果、東大に行く受験生が京大に、京大に行く受験生が東北大学にと、ドミノ倒し現象で、私はその大津波に巻き込まれてしまった。当初は国立大を目指していたが、父の定年の関係で浪人もできず、遠くの私立大に押し流されてしまった。
落ち着いて周りを見渡せば、国立大学はレッドオーシャンだが、私立大学はブルーオーシャンであった。受験戦争から解放された学生は、私立大学ではゆったりと勉強していた。私は悔しさから、特待生になる作戦を立て、猛勉強を始めた。その成果で特待生の座を獲得し、卒業時は総代として卒業証書を受け取った。
非力な凡人がレッドオーシャンで戦うのは愚かである。「無駄な戦いを無くして贅沢を」の知恵を獲得した。
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カンバン方式で生産する
最小単位だけ作って生産・販売・資金回収。よければ、次のロットでもう少し増やす。これはトヨタ生産方式のカンバン方式である。
馬場恵峰書
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3Mに伝わるR&D語録
「制度」ではなく、「研究風土」が創造性を生む
◆失敗しないのは前に進んでいないことだ
◆船長は血の出るほど舌を噛む
(支援はするが口をださずにいる)
◆窓から知恵まで一緒に捨てるな
◆アイデアに反対するなら材料を提出しろ
◆猫に九生ある
(中止したプロジェクトもだれかが自由な時間を使って継続)
◆先住民のいない市場を狙え
◆少し作って、少し売り、またもう少し作る
「日経ビジネス」1993年5月31日号
2021-12-24 久志能幾研究所通信 2248号 小田泰仙
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