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2020年12月17日 (木)

馬場恵峰書、随筆掛け軸60本の写真集 完成

 

 馬場恵峰師日本書道史上初の掛け軸60本の写真集(試し刷り)が完成した。あと微調整をして出版する。

 前回(2020年11月19日、恵峰師の元を訪問した折、新幹線の中で、そのゲラ原稿を読み切って、やっとその内容を確認した。まさかこの歳で、幅30cm、長さ84cmの原稿60枚を、新幹線の中で校正する機会を得るとは思わなかった。

 下記は、その「編集後記」である。

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編集後記

 この書は、日本書道史上初の掛け軸60本の写真集である。この軸の内容は、明徳塾、知己塾、日頃の書道塾で馬場恵峰師が教えられた内容の集大成である。馬場恵峰師の自叙伝でもある。

 明治・大正・昭和・平成を通して、一つのテーマで掛け軸60本を書き上げた書家はいない。93歳という年齢から考えて、その掛け軸60本から師の尊い想い伝わってくる。

 それを直接、表装してある60本の軸に、わずか3ヶ月ほどで書き上げられた。神業である。

 

 撮影は2019年の年初に終わっていたが、私が大病を患い、その後の経過が芳しくなく、編集作業が延び延びになった。また馬場三根子先生の突然の逝去もあり、新型コロナ禍も影響もあり、着手が遅れた。

 

 馬場恵峰師とのご縁は、不思議なめぐり合わせであった。「天之機緘不測」(菜根譚)、天が人間に与える運命のからくりは、人知では到底はかり知ることはできまい。もし私の前職の会社が合併されなければ、馬場恵峰師とのご縁はなかった。このご縁の不思議なめぐり合わせに、ご先祖に手を合わせる日々である。

 人間の持つ生活模様の変化が限度を超え、人生・生命観の実相、人間と動物を分ける生命の実相が、時代の喧騒の中で忘れられようとしている。恵峰師は、テレビ・スマホに代表される虚構上に舞う華やかな虚像に惑わされて、人間として大切なことを忘れているのではと危惧される。「時代の風潮に惑わされず、人間としての歩みを、正しく進めて欲しい」と恵峰師は訴える。

 

 人間は、父母、所、時を選ばずして、この世に生を受け、生老病死を経て、浄土に旅立つ。人は生きている間に、どれだけ多くのお世話とご縁を頂いたことか。恵峰師は、その報恩感謝の気持ちを掛け軸で示された。恵峰師は、それができるのも「今のうち、生きているうち、日の暮れぬうちで、自分の思いを伝えるなら、生きているうち」として揮毫することを決意された。

 恵峰師は、「人との佛縁は、天の計らいである。これから生涯の旅をする皆様が、この軸で人生の生き方を考え、残り人生の歩みを見直していただければ幸いだ。老人の身は従容として、時を刻む流れに任せる人生なれば、諸冊に学び、残れし人生、その所、時を大切に、余生を楽しむ歩みこそ大切なり」と93年の人生を回顧して軸に揮毫された。

 

 時代の流れで、世の書展では競書が多い。それは他人相手の闘いの姿である。またその書展では、判別不能な抽象的書体を競い合う自己満足の世界に堕している例が多い。文字とは何かの原理原則を忘れた邪芸である。

 それに対して、この軸は全くその対極にあり、自分との闘いの所業である。それは道修行の一環である。「競争」という言葉は、明治以前には日本に存在しない。日本が開国して西洋思想の展開が始まった。福沢諭吉翁が西洋文献の翻訳時に創作した言葉が「競争」である。西洋での弱肉強食の競争には必ず、勝者と敗者が生まれる。

 それに対して東洋では「強欲」ではなく「共生」「利他」の思想である。日本で別の形で花開いたのが「道」の思想である。武士道、書道、華道、等の芸事には勝者も敗者もない。日本の哲学は共生、利他、切磋琢磨、自己精進という言葉で象徴される。日本では、他人を蹴落として勝者になるのは美学とされない。近代西洋では、グローバル経済主義の行き過ぎで混迷の袋小路に入りつつある。新型コロナウイルス騒動は、それに対する天からの鉄槌であろう。修行としての書道を、是非ではなく西洋文化との対比として、生き方を再確認する手段として見たい。

 

今、私は大病を克服し、精一杯、生かされた命を生きている。「だからこそ心機一転、日々大切に、年々歳々、生き活かされる人生を大切に、余生を正しく生きよ」と馬場恵峰師の言葉に力づけられている。

 

 今回、自分が60本の軸を撮影する佛縁を頂いたことに感謝である。恵峰師との出会いのご縁、恵峰書の撮影のための最高の撮影機材を買えたご縁、ここ数年間、恵峰師の書の撮影をしてきて最高の撮影技術を習得できたご縁、撮影を援助してくれる書友のご縁があって、この軸写真集が完成した。どれが欠けてもこの写真集は生まれなかった。まさに佛縁である。この写真集の作成に協力していただいた書友の皆様にお礼を申し上げます。 合掌                      

   令和2年12月9日  小田 泰仙 

 

2020-12-17 久志能幾研究所通信 1865  小田泰仙

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