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2020年8月 9日 (日)

危機管理16 『チーズはどこへ消えた?』(1/2)

 スペンサー・ジョンソン博士著『チーズはどこへ消えた?』(2000年 扶桑社880 円)がベストセラーになった。話はたわいない内容であるが、現実には深刻な人間の性を寓話的に描いた作品である。ある迷路に 2匹のねずみと 2人の小人が住んでいた。そこに美味しいチーズがあり、満ち足りた生活をしていた。ある日、そのチーズがなくなる時が来た。その時の4者(匹?)の対応ぶりのお話である。ここで登場する「チーズ」とは、我々が人生で求める仕事、家族、財産、精神的な対象の象徴である。「迷路」とは我々の幸せを求める場所、仕事場、家庭の象徴である。登場する2匹のねずみと2人の小人は我々の性格を象徴している。チーズが消えた時、自分ならどうするかを自問自答して読む哲学書でもある。

 

この物語の教訓

 変化は起きる   チーズはつねに持っていかれ、消える

 変化を予期せよ  チーズが消えることに備えよ

 変化を探知せよ

   常にチーズの匂いをかいでいれば、古くなったのに気がつく

 変化に素早く適用せよ

  古いチーズを早く諦めれば、それだけ早く新しいチーズを楽しめる

 変わろう     チーズと一緒に前進しよう

 変化を楽しもう

   冒険を十分に味わい、新しいチーズの味を楽しもう!

 進んですばやく変わり再びそれを楽しもう

          チーズはつねに持っていかれる

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 スペンサー・ジョンソン博士著『チーズはどこへ消えた?』(2000年 扶桑社880 円)

 

警告の書として

 会社は放置すると死んでしまう。そんな厳しい現実を、形を変え、たわいもない寓話にしてのが『チーズはどへえ消えた?』である。今、企業は生き残るため、従業員の意識改革と教育に必死である。必死でない企業が倒産している。そんな背景もあり、この書は米国の多くの有名企業(*) の教育用テキストとして使われてベストセラーになったようだ。今ある状態が永遠には続かない、今の本業がいつかは成り立たなくなるときが来る。その時にどうするか、その時の各人の生きざまがこのお話しの中でたとえで語られ、そこに登場する4者(ねずみと小人)のどれに自分は当てはまるかを自問自答させられる厳しい物語でもある。

 赤字の会社・事業部・部門・個人(赤字の人生)は、変化が来るとは思わず、変化を一時的なものとしてしか認めず,変化を怖がり、安全な場所で今までどおり働きたいと思い、変化をしようとする人の足を引っ張る人や体制が多いし、体質がそうなっている。少なくとも黒字の会社と比較するとそういう傾向が多い。だから、この書を警告の書として世界の企業のトップは読めと勧めている。たぶん変わらない部下にイライラしながら。なにせ大前研一氏は「35歳から50歳までの社員は企業内の不良債券だ」とまで極言している。そんな意見がでるのもそれなりの根拠があるはずだ。本当に著者が伝えたかったのは「変化を恐れるな、変化を楽しみなさい」である。それが出来ない人が不良債権となり、会社を危機状態に陥らせるのです。

 

*:シティーバンク、エクソン、イートストマンコダック,ジェネラルモータース、グットイヤー、マリオット、モービル、オハイオ州立大学、ゼロックス、教会と病院、政府機関、米軍等で活用(他15社名が記載)

   (この情報は邦訳本には記載されていない。原書のみの情報)

 

経営者の本音

 この物語は、かっての高校のクラスメートの一人マイケルが自分の会社の仲間に配ったお話として語り、その後に、この話の聞かされた元クラスメート達による静かな熱い議論がある。ここからが経営者の本音の部分である。そこで私が注目した重要な現実(変化しない自分)とシリアスな発言(変化しない人は解雇)があった。

 

変化しない自分

 ビシネスウーマンのローラが疑問を投げかけた。「変化を恐れている人はどれくらいいるの?」と、その場のかつてのクラスメートに挙手してもらった。しかし、たった一人しか挙手しなかった。で、「自分以外の人は変化を恐れていると思っている人は?」との質問に変えたら、全員が挙手した。つまり自分では気づいていない。認めたくないという現実がある。この種の教訓は品を変え形を変え我々に教訓という苦い薬を提供してきた。それはいかに人間が変われないかの証明でもある。また、変わったつもりでも、回りからは変化してとは見えないという事実でもある。その格差に気づいてほしいのである。

 

 私が受けた某経営者セミナー(2000年頃)で、我々はリーダーとして、また経営者として変わるつもりで、参加したのだが、実際は少しも変わっていない自分との出会いがあった。その出会いに気づいただけでも自分を褒めてあげたい。普通の人はそれさえ気づかない。

 

変化しない人は解雇

 変わらなかった人に対しては、どうしたのだという質問が飛び、「辞めてもらうしかなかった。全員働いてもらいたかったが、我が社が急激に変わらなければならない状況で、そうしないと全員が困る状況に陥るからだ」と、マイケルは苦渋に満ちて告白した。米国企業のトップがこの書を勧める本音がここにあるような発言である。我々がリーダーや経営者の意識で、これらの4者の人達を俯瞰的に観て、組織を運営していかねばならない。しかし危機状態でも変われない人達がいる、その現実を知ることである。ここに組織の縮図がある。あなたが4者の上に立つリーダーなら、どういう運営をするかの命題としても読める「楽しい」大人のファンタージーである。これが楽しく読めなければ、あなたはヘムである。リストラを覚悟するか、意識改革をしなくてはなるまい。

 

10年間で8割が倒産

 日本には約3,000 万社の中小企業が存在するが、10年間で8割が倒産する現実がある。残るのはたった2割である。これが50年間となると、存続するだけ奇跡と言われる。単純に確率計算をすると,0.2 の5乗は0.00032 である。確率的に3,000 社に1社しか生き残れない。

 大企業でも、普通は企業の寿命は30年といわれる(2000年頃)。花形産業でもその寿命は30年である。今の技術革新の激しい時代(2020年)は、その寿命は18年と言われる。

 私の前職の会社も創業65年で、市場から名が消えた。その会社を吸収合併した会社も、以前に倒産寸前になって別の大会社の資本が入った。

 兵庫県明石市の人麻呂神社には、50年前に当時の地元の企業100 社が寄進して社の修復をおこなった。坂の石段にその時に寄進した企業名が刻まれている。しかし、当時の企業で現在も存続している企業はたった1社しかない。それもその企業名は確かに残っているのだが、その企業の業態は変わっている。上記の確率から計算と現実をみると、現実の厳しさを実感できる。現在は、倒産しないという神話のある業界や大企業の破綻の噂が目白押しである。

 そもそも寄進とは隠徳である。寄進を行為を石に名前を刻ませるとは売名行為である。名前を刻む作業にも費用が発生して、寄進したお金が目減りしている。トップのそんな傲慢な姿勢が、50年後に企業が消滅する因果を招いたのではと思う。売名行為をする、それは企業が成長の頂点を極め、後は衰退するとの暗示である。

 数百年続いた伝統あるお菓子屋さんがある。そこが生き延びた理由を店主に聞くと、伝統を絶えず時代に合わせて変え来たので、今の伝統が守られているという。伝統を守るには変わらないと守れないのである。それが守破離である。

 

私のチーズが消えた---過去を抹殺して

 私は、前職の事業部の看板商品の開発に、入社以来20年間、開発一筋に携わってきた。ところが人事異動で生技開発室を担当することになり、今までやっていた自分の経歴を否定する技術開発に取り組みを命じられた。自分の過去を抹殺する業務である。今、自動車部品開発で、新工法技術が価格競争とグローバル競争で、求められる技術の一つであるからだ。いつまでも過去の技術にこだわっていると部品事業部の製品が売れない結果となる。私自身、目の前からチーズが消えた現実に置かれた。

 

 当社の看板商品のもう一つが自動車部品事業部の油圧部品である。当時、時代は地球環境保護、省エネ、の流れを受け、電気化のニーズが高まっている。当社の油圧部品は、世界市場シァアで15%の世界第2位であるが、5年後に今の製品の(チーズ)の市場は激減している恐れがある。少なくとも電気化のニーズが高まるのは各種の予想で警告されている。油圧部品市場が激減した時になって、「チーズはどこに消えた?」と狼狽してはなるまい。

 現在、美味しいチーズがいくら大量にあっても、日々どんどん古くなり、減っていく。「ホー」が「新しいチーズは今までの場所ではなく、外にあるのではないか」と考える瞬間がある。それこそ著者が一番言いたかったことなのだ。

 

 この書の著者スペンサー・ジョンソン博士は心理学者である。20世紀は頭の時代で、21世紀は心と魂の時代と言われる。頭だけで考えているだけでは登場人物のヘムとホーのように変化に対応できない。まず行動が必要だ。変化は起きるものとして、変化を予期し、素早い対応が求められる。そうできない企業は破産し、人は破綻する。変化する、変化に機敏に対応する、そうした倒産への防御が危機管理である。そのためには企業は変化し続けなければならない。企業を構成するのは人間である。その人間が変わらないと企業も変わらない。

 

2020-08-09 久志能幾研究所通信 1698   小田泰仙

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