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2018年3月19日 (月)

高松国際ピアノコンクール「ピアノ三昧」4/5

 当初、このコンクールに行くことを勧められた理由が、同じ課題曲を違ったピアノで入れ代わり立ち代わりに参加者が弾くので、ピアノの違いが良くわかるとの説明であった。ところが、同じ課題曲でも、巻数、番数が違うと曲の傾向は同じだが、全く同じではないので、素人の私には判別が難しかった。それは想定外であった。3日間、世界レベルの演奏を聴いて、別の意味で大きな学びを得た。

 

課題曲のバラエティさ

 高松国際ピアノコンクールの第一次予選の課題曲は、下記の3つである。

 (A)バッハ平均律Ⅰ、Ⅱ巻より1曲

 (B)ショパン練習曲作品10または作品25より1曲

 (C)1900年以降に作曲された作品

 同じ曲を演奏して、ピアノの音質の比較ができるかと思ったら、バッハ平均律Ⅰ巻だけでも24番もあり、予選参加者が色んな選択をして、同じ曲の演奏でのピアノ音色比較は無理であった。「同じ曲の演奏なら、学芸会になってしまう」と言われて、納得した。

 

各ピアノの音色の違い

 どれが絶対的に正しいピアノの音とは誰にも言えないので、コンクールで一番多く使われているスタンウェイの音を基準に、他のピアノが私の耳にどう響いたかを判定した。

 スタンウェイのピアノは、一次予選で41名中23人(56%)が選択した高い選定率であった。二次予選で50%、三次予選で60%である。圧倒的にコンクールでは、スタンウェイが基準となるようだ。

  カワイの音色は、派手というか、明るい音と感じた。コンクール用の戦闘的な音作りと感じた。そのためか、一次予選で41名中10人(25%)の第二位の選定率であった。二次予選で30%、三次予選で20%である。

  ヤマハCFXの音色は、重厚で深みがあると感じた。おとなしい感じで、押しが強くない感じである。そのせいか、一次予選で41名中3人(7%)の選定率でしかなく驚いた。二次予選で15%、三次予選で20%である。三次予選でカワイと並んだ。

  ベーゼンドルファー280VCの音色は、優しい音である。コンクールでの争いごとには似合わないようだ。満を期して新しい音作りの製品で挑戦したが、一次予選で5%(2人)にしか選定されず、二次予選で一人になり、三次予選で消えた。

 この種のコンクールに出ると、メーカには膨大な費用負担がかかる。ベーゼンドルファーは零細企業(?)(ヤマハの100分の1の企業規模)では、ショパンコンクールのような国際コンクールに出場は無理と聞いていたので、今回の高松国際ピアノコンクールにベーゼンドルファーが出てきたので、内心驚いた。

 

ベーゼンドルファーimperial

 2018年3月18日、名古屋「しらかわホール」にて玉田裕人さんのピアノリサイタルを聴いた。その機種はベーゼンドルファーimperialである。280VCは箱全体が鳴るベーゼンドルファー独特の構造に、より早い立ち上がりの構造を付加にした新型である。Imperialはベーゼンドルファー本来の音で、優雅な調べで、乱打強打激打が連続のコンクール用課題曲の音には、似合わない趣きである。他社のピアノと比較すると、まるでF1レースのフォーミュラカーと比較勝負をするような趣で、比較すること自体が間違っていると感じた。もともとベーゼンドルファーはサロンで静かに聴くピアノである。

 その昔、仕事でホンダの総アルミ製のスポーツカーNSXをモニターとして試乗したことを思い出した。NSXは、性能は確かに素晴らしいが、街中で乗るには、背は低いため、乗り込みにくいし視線も低いため回りの状況が見にくい。ギアチェンジも難しいし、乗りこなしが難しい。カッコよく高性能なのだが、欲しいとは思わなかった。この車はサーキットや高速道路でなら、映える車である。それと同じことが、コンサート用のピアノにも言えそうだ。コンサート用ピアノにも、演奏する曲にあった最適の機種や演奏会場がありそうである。

8p1100154 2018年3月18日、名古屋「しらかわホール」で

 

音楽は何のため?

 今回のコンクールで一番驚いたのは、ロシアのタチアナ・ドロホヴァが弾いた「戦争ソナタ」の曲で、爆弾が連続的に爆発するような激しい曲で、その弾き方に神業を感じたて、ピアノ技法を誇るには最適かもしれないが、音を楽しむには道を外れていると感じた。しかし、こんな激しいレベルの曲を連続して何人もの競技者達に弾かれたら、ピアノの弦も切れてしまう。私なら間違っても「戦争ソナタ」のCDを買う気にはなれないし、自宅で聞きたいとも思わない。趣味で癒しのために聞く音楽は、闘いのために聞く音ではないのだ。

 

2018-03-19

久志能幾研究所 小田泰仙  e-mail :  yukio.oda.ii@go4.enjoy.ne.jp

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