為写経が奏でる「美しき青きドナウ」
為写経のご縁
ご縁があり、平成27年、自家のお墓の改建をすることが決まった折、父の末弟の小田五郎に「護國院」という立派な院号を長松院住職様から付けていただいた。小田五郎は昭和19年にビルマで戦死された英霊である。また元の戒名が戰勲至誠居士であるので、吉田松陰が好んで使った「至誠」であるのも因縁である。その一連の過程で、小田家先祖代々諸精霊の位牌を作るとよいと長松院住職様からのアドバイスを受けて作成した。
その位牌を納めに来た横田仏壇屋の奥様から、為書きの写経をお墓に納めると良いという助言があり、早々に写経を始めた。書いているうちにそれならお墓に入っているご先祖様全員の為写経をしようという気になり、全33名分の写経をする大変なことになった。平成27年8月15日から始めて、11月29日のお墓の開眼法要までに百十余枚の為写経を終ることができた。これも以前に、知己塾で恵峰先生より「般若心経の写経をすると書道の勉強にもなる」と言われて、その教材を入手していたため、直ぐに取り掛かれることが出来た。それもご縁である。
為写経から生まれたご縁
般若心経の一字一字を慎重に書いていると、その意味するところが伝わってくる。書いてこそ、その経の意味が理解できる。それが分かったのも大きな功徳であった。その功徳のお陰?で、お寺から来た年忌の連絡書で、ご先祖の戒名に違和感を覚えたのが、過去帳と位牌の戒名の齟齬の露見につながった。位牌と墓誌の改建をすることになる騒動となった。それも何回も為写経で戒名を書いて頭に染み込んでいたので間違いに気が付いた次第である。
馬場恵峰先生は、今までに一万五千文字の写経をされたという。先生でも一枚の般若心経を書かれるのに二時間を要するという。それも斎戒沐浴をしてからの写経である。ご縁があり、先生の書の写真集を出版することで、先生の書を撮影している。これもご縁である。
なぜ為写経をするか、なぜ仕事をするか
お経を書くことは、ご先祖の供養をする行為となる。それがご先祖へに一番の供養である。口でいくら唱えても、書いて供養する行為には及ばない。
お墓の開眼法要以降も、毎日為写経を続けている。来る日も来る日も写経を続けていて、写経と仕事の関係に思いを馳せた。同じ写経をしていても、前日と同じ字が書けるわけではない。毎日、少しでも前日よりも良き字で写経ができるように取り組んでいる。日々新たなり。
自分の仕事でも同じである。毎日、仕事をしていても出てくるアウトプットは日によって違う。その違いを日々レベルアップさせるのが仕事である。全く同じレベルが継続するなら、それは作業である。仕事である以上は、創造がないといけいない。
仕事とは祈りである。仕事をすることで社会への貢献となる。まわりまわって社会への奉仕となる。橋作り、道路作り、医療行為、演奏活動、全ては社会が幸せになるための活動である。現世の人たちが幸せになるために活動である。人々を幸せにした量に比例して報酬がある。それが仕事である。人に喜び、付加価値をあたえない作業は、仕事ではない。それは単なる物理的な仕事量でしかない。その仕事も成長がないと意味がない。
「美しき青きドナウ」にかける想い
音楽を楽しむのは趣味ではあるが、演奏家にとって曲を演奏するのは、社会の人々に喜びを与える奉仕活動としての仕事である。仕事である以上は、創造が必須である。2018年1月、ドレスデントリオが来日したおりの演奏曲目の一つにヨハン・シュトラウス2世作「美しき青きドナウ」が演奏されたが、その演奏のリハーサルでもビオラのアンドレアスが譜面にメモを記入している姿に疑問に感じ、質問をした。「今まで、なん千回も何万回も演奏、練習をしたはずの古典のこの曲で、何を今更メモを書き入れることがあるのだ?」
アンドレアス曰く「どんな曲でも、毎日、毎回、新しい発見がある。リズムが違い、テンポが違い、環境が違い、聴く聴衆が違い、我々も昨日と同じレベルではない。そこに新しい取り組みのインスピレーションを感じて、新たしい創造の音への挑戦が生まれるのだ」と。
「美しき青きドナウ」も、国民にとってはお経と同じ位置付けかもしれない。美しい国土・河川を歌い、その恩恵に感謝の念を捧げ、永遠の国家の存続を祈念する「お経」なのだ。そのお経は時代と共に進化している。
我々が作り出す仕事の作品も、人々に幸せの一助にある形を提供する。その多くの形が集って社会に幸せを提供している。自分が担当する仕事とは、社会の幸せを祈念するお経なのだ。そのお経には、日々の創造が必要とされる。
2018-01-15
久志能幾研究所 小田泰仙 e-mail : yukio.oda.ii@go4.enjoy.ne.jp
HP: https://yukioodaii.wixsite.com/mysite
著作権の関係で無断引用、無断転載を禁止します。
コメント