人生のコンプライアンス値
コンプライアンス値とは 1÷〔剛性値〕 で表される。機械関係の専門用語である。この剛性値とは、ばね乗数と呼ばれる数値で、ばね乗数とは1キロの加重を与えたら、ばねがどれだけ撓むかを示すばねの強さである。
人生という乗り物のコンプライアンス値とは、悪の誘惑に対してどれだけ耐えられるかの強さの値である。自分の役職に対して贈賄側が金品を示して、見返りを要求した場合、自分がどれだけで堕ちるのか、その金額値でもある。100万円の賄賂で堕ちれば、自分の心のコンプライアンス値は100万円である。たった100万円で人生を悪魔に売ったことになる。心のコンプライアンス値を高めないと、人生航海で沈没する。
造船でのコンプライアンスの設計
船の設計で一番大事なのは、障害や荒波に対して船が傾いても、復元する力である。いかに荒波の中を安定して航海するか。何があっても平常心で安定して航行できるか、それが船の設計に問われる。
1625年に建造された世界最大の戦艦WASA号は、処女航海で湾を出るまでに、突風に会い沈没した。船としてのコンプライアンス値が低かったのが原因である。その設計の恥さらしは、2000年代の現在もWASA号博物館内でその恥を晒している。
人生のコンプライアンス値不足で、政財界の汚職事件で名を汚した事件簿が、歴史に刻まれて新聞の縮小版となり国会図書館に保管されている。
操舵装置の設計
車の操舵装置(PS)の設計で一番大事なのは、真っ直ぐ走る能力である。曲がるのは簡単である。しかし、道路の凹凸や小石にタイヤが取られても、それに影響されずに真っ直ぐにタイヤを保持する能力がPSに求められる。PSには、操舵における剛性とあそび、そして高コンプライアンスが求められる。人生航海での必要な能力と同じである。
人生の操舵装置
人生でも、誘惑に負けて、人生道で悪い方向に曲げるのは簡単である。人生を真っ直ぐに走るのが難しい。人生にはあまりに多くの誘惑が満ち溢れている。また、ささいなことに悩み自殺する人が絶えない。それも人生のコンプライアンス値が低いのだ。コンプライアンスは、遵法精神とも言われる。自分の人生で定めた「法」(戒め)に、いかに遵守するかで、人生(=命)を輝かせもし、堕落もさせる。いくら頭が良く能力の高い人でも、堕落しては人生価値がゼロになる。ゼロならまだしも、奇跡で生まれ親が手塩をかけて育てた命を地獄に落とすことになる。自殺で、大事な命を自分の手で殺めるなど、一番人の道に反している。
学あり智慧なき人生
人生のあるべき道から誘われて道を誤る人が多い。洗脳教育のように、世間から、ちやほやされて、己は偉いのだとの勘違いになり、常識ある目で見たら、目を覆うばかりに愚行を繰り返す政治家が絶えない。
伊川先生言う、人、三不幸あり。少年にして高科に登る、一不幸なり。父兄の勢に席(よ)って美官となる、二不幸なり。高才有って文章を能(よ)くす、三不幸なり。(『伊川文集』)
年の若いのにどんどん地位が上がる。世の中はこんなものだと思う自惚れ者が出来上がる。これは修練を欠いたまま偉くなる不幸者である。実務経験が少ないのに市長になり、ヒラメの取り巻き役人により自惚れ者が出来上がる。これは官僚だけではない。親のお陰で若輩が社長になったりして、己の会社の不祥事が起こり、その記者会見で「なりたくて社長になったのではない」と愚かな居直りをする者も出る。
今は東大をでたからと、若くて有能だと言われてちやほやされる。これは当人にとって不幸だ。記憶力が高く、司法試験に受かり検察官になるほどの才能があって、口が達者であれば、それも大きな不幸である。山尾志桜里議員は、元検察官として弁が建つはずなのに、ガソリン代過剰請求や、自身の不倫には説明責任を放棄する。人生の悪の誘惑に負けたのだ。記憶力は高くても、人生道の道徳コンプライアンス値が低いのだ。学があっても智慧がないのだ。
人間でも、動物でも、植物でも本当に大成するためには、「習い、知と与(とも)に長じ、化、心と与に成る。」という長い間の年期をかけた修練・習熟・修養という期間が必要である。
WASA号博物館
WASA号は、1628年に当時世界最大の木造戦艦として製造された。その約100 年前の1521年にスウェーデン貴族のグスタフ・ヴァーサがスウェーデンを建国し、1523年に王位に就いた。1630年に、ヴァーサ国王の孫グスタフ2世アドルフが、リボリアを征服し、ドイツの新教徒を保護するという名目で、ドイツに侵攻して、第3期30年戦争(スウェーデン戦争)を引き起こした。その後スウェーデンは領土を拡大して、大国時代を迎えることになる。当時スウェーデンは列強に伍し、その勢力拡大を計っていが、それは長くは続かなかった。ヴァーサ号はその時代の戦艦である。その時日本は、やっと関が原の戦いが終わって、徳川の時代になったばかりである。当時の世界で、軍事大国で科学技術の先進国であったのがスウェーデンである。スウェーデンは、なんとドイツに戦争を仕掛けた歴史ある国でもある。かつ国王の名が、「アドロフ」には歴史の因縁を感じる。
しかしヴァーサ号は設計ミスのため(頭でっかちの不安定構成)、1628年8月10日にストックホルム港から処女航海に出たところ、港湾を出る前に突風に会い、転覆沈没してしまった。大砲の積み過ぎが原因とも言われる。この点で、歴史的な名戦艦である。戦わずに平和的に?沈んだのだから、いかにも未来の平和国家スウェーデンを予見するようなエピソードと言える。とはいえ世界最大の戦艦を建造するとは、スウェーデンは当時の軍事大国であった。
この艦は1961年に334 年ぶりに、水深31mの海底から引き上げられて修復され、現在はWASA号博物館として展示されている。沈んだ場所は分かっていたが、技術的な問題でこの時まで、引き上げることが出来なかったとか。極寒のバルト海の底に沈んでいたため、木造艦といってもあまり腐食もせず、原型をほぼ止めており、当時のスウェーデン黄金時代としての艦船装飾、彫刻像、備品等がつぶさに見えて、歴史的な鑑賞には興味深い。だだし古い木造艦のため、湿っぽく暗い雰囲気はあまり楽しいものではない。(1985年記)
図1 WASA号
排水量 1300トン 大砲 64門 乗員 435人
全高 61m 全幅 4.7m
2017-09-27
久志能幾研究所 小田泰仙 HP: https://yukioodaii.wixsite.com/mysite
著作権の関係で無断引用、無断転載を禁止します。
コメント