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2017年8月 2日 (水)

インプラント 21(逆選択)

3.21 逆選択

 経済学の専門用語に「逆選択」という言葉がある。これは「質の良い財よりも、質の悪い財が多く市場に出回るような現象」を意味する。この現象は情報の非対称性が存在する場合に発生する。例えば中古車の売買で、良い中古車ではなく、故障しがちな中古車(レモン)ばかりが供給される現象をいう。販売店は、販売する中古車のどれが良くて、どれが悪い中古車かを知って販売する。買う方はそれが分からないという情報の非対称である。

 医療の場合には特に、医師の持っている情報と患者が持っている情報には、より大きな非対称性が存在する。医師に都合の悪い情報は、患者に提供されない。その結果、医者に都合のよい選択肢が氾濫することになる。今回のインプラントの例や豊胸手術の例が相当する。それは国が認めていない治療方法である。

 この項目は、国家試験の科目の一つである経済学の中の頻出問題である。それだけ現実の経済で問題が頻発しているとの試験問題作成委員の認識だろう。その検定試験問題でも難解なレベルの問題が多く出ており、私は過去問を解く度に何回もミスをしている。それだけ、素人は騙されやすい。

 モラルハザード(道徳的危機)

 「逆選択」に対応する言葉が「モラルハザード」である。行動に関する情報に非対称性がある場合にモラルハザードという問題が生じる。モラルハザードは逆選択とは逆に契約後に生じる。それは当事者間で契約が結ばれた後に行動が観察できないので、一方の当事者が当初予想されたとは異なる行動を取る事態となって、契約が想定した条件に当てはまらなくなる状況をいう。

 保険に入ったため、本来の対応が疎かになる状況をいう。この原稿を書いているとき、自家の屋根瓦の葺き替えを実施した。ところが業者が、屋根の養生を怠り、たまたま早朝に雨が降り、2階の天井が汚れて、天井のやり直しをする事態となった。その業者いわく「大丈夫です。保険に入っているので、保険で直します」と平然としている。こういう事態が出ると、結果として保険料金が上がり、回りまわって、リホーム費が上がり、顧客に迷惑をかけることに気がつかない。これこそ道徳的危機である。

 インプラントは普通の歯よりも厳密な手入れが必要なのは、インプラント業界では常識である。しかし、インプラントは永久に持つとの宣伝で、患者が手入れを疎かにするケースが多い。自分の歯の手入れが出来なかった不精者が、インプラントの手入れを十分にするとは、矛盾がある。そして、インプラント歯周病にかかり、インプラントを外さねばならない状況に陥る危険性が高いことを告知しないのは、モラルハザードと呼ぶのではないか。

 

インプラントの歯周病

 インプラントは材質がチタンとセラミックなので、虫歯にはならない。しかし、インプラントを埋入しているのは自身の骨で、その周囲には歯茎がある。磨き残しなどがあると、インプラントの根元に歯垢がたまる。それが菌に侵されて悪化すると、天然歯と同じように歯周病菌によりインプラントを支えている周りの骨が溶けていく。そうなると、インプラントを支えている土台(骨)が無くなった状態になるのでインプラントはぐらつき、やがては抜け落ちてしまう。

 天然歯には骨との間に歯根膜という組織があり、その膜から血液供給がされているが、インプラントと骨の間には歯根膜は存在しない。歯肉も顎の骨も血液から栄養をもらい抵抗力を備えている。だからインプラントは天然歯よりも抵抗力が弱く、細菌に感染しやすい。

 

2017-08-02

久志能幾研究所 小田泰仙  HP: https://yukioodaii.wixsite.com/mysite

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