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2017年7月25日 (火)

首を吊らんと分からん人ですか?

 某情報システム会社が、その会社としてあるまじき情報漏洩という不祥事を起こした。その原因には深刻な病巣を含んでいたので、私は再発防止を求めた。それに対して、「全幹部を集めて、再発防止の対策を協議しています。第一歩として社員教育を推進しており、次回にその結果を報告します」と承認者不明のお詫び書類と、矛盾に満ちた再発防止書を持参した。事後処置の一連のお粗末さに呆れていた私は、「報告していだく必要はない。どうするかは、あなたの会社の問題なのですから」と言い渡した。その言葉を鵜呑みにして安心したのか、その後、その会社から、その後の改善の経過報告は無い。また、その後も仕事ぶりに目に見えた改善も見られなかった。最近になって、過去に蒔いた悪い種があちこちで芽を出しつつあり、その火消しにおおわらわとなっている。

初期消火の失敗

 人間だから、仕事をすれば誰しもミスや間違いは起こす。そんなことは問題ではない。仕事を多くする人ほど、失敗を多くする。それ故、失敗は多くすれば良いと思う。要は、その不祥事に対して、いかに早く火を消し、再発防止をするかである。失敗を経験してそれを糧に人間は成長する。その失敗から、どれだけ多く学ぶかが問われている。お客さまが怒っている、という事実に対して、まず速やかに、お詫びと事後処理を講じる必要がある。問題を起こした相手先に対して、その対応を間違えると更にこじれる元となる。不祥事が起きたのなら、相手と状況に合わせてそれ相応の職位の人間が速やかに出向かないと、火に油を注ぐ結果となる。トラブルは人間の感性、感情の問題であり、実務上の被害は意外と低い。今回が正にそうであった。不祥事に対して謝りに来たのは、若いマネージャーだけであった。当社としては、過去の経緯と後処理のお粗末さもあり、何か侮られた気分となり、ますます私の心証を害し、問題がこじれてしまった。「当社や私は、そんな程度にしか見られていなかったのか。確かに相手にとって当社からよりも、儲かる大手取引先があるわい」と邪推をしてしまう。そう相手に思わせたら、思わせた方が悪い。そう思わせるような状況を過去の対応で作り出している。

 問題がこじれたまま、1カ月以上も経ってから、その上位職制の部長が謝りに来た。そのマネージャーの対応が問題になっているから、その上位職制が速やかに火を消しに出向かないと、問題は解決しない。これは再発防止と両輪をなす初期消火の鉄則である。しかし、問題がこじれてしまった時点で、責任は部長の上位職制に移行した。それは誰の問題か、である。問題になるのは、事故そのものではなく、当事者間の信頼関係の問題である。結果して、会社の誠意が疑われる問題に発展していった。

雪印乳業食中毒事件、タカタエアバック事故

 それと同じ経過でボヤが大火になったのが、2000年の雪印乳業食中毒事件である。食中毒被害事態は生死に関わる事態にはならなかったが、世間に対する信頼関係が破綻して、会社の信用は地に落ちた。社長の「私は寝てないんだ」との発言が、会社の存続が問われる事態に発展した。

 エアバック事故のタカタの問題でも、二代目重一郎社長が事故への認識が甘く経営破綻に至った。タカタは祖父にあたる武三氏が、1933年に彦根市で創業した。2代目の重一郎氏がシートベルトやエアバッグなどの新規事業に参入して業容を拡大した。高田家が事実上、株式の半数以上を保有して時価総額で2000億円以上に達していた。国内有数の富豪だった一族の資産もほぼすべてが消失した。

 この種の問題は、いかに初期の処理、事後処理が大切かを示している。社長がその事象を作り出している。これは会社の経営責任、経営理念の問題である。子供が不祥事を起こしたら、管理監督責任上、親が謝りに来るもの。それと同じで、状況判断もできず、不祥事の対応をしたことに、経営に対するあなどりがあった。

自動車部品業界の再発防止

 自動車部品業界では、問題が発生すれば、客先から言われなくても、きちんとその再発防止をして、お客様に報告するのが不文律である。大きな品質問題を起こせば、客先の品質保証部が乗り込んできて、ラインの工程監査が始まる。そうやって、自動車部品業界は品質を死守するため日々戦っている。この業界では、起こした不具合の再発防止を打たず、経過を報告しない場合は、お客さまからの仕事がなくなるとの単純明快な掟がある。報告がないのは、対策をしていないこと。当たり前の処置を当たり前にしないと、グループ会社全体が危機状態に陥る。自動車部品の品質問題は、人の命に直結し、リコールにも発展する。

学校文法と伝達文法の違い

 ノーテンキなその会社は、「報告の必要はない」の言葉どおりに受けとって、その後の報告はない。「私には他社にその再発防止を報告させる権利はない。しかし報告しないと、貴方の会社の仕事が無くなるよ」との言外の意味を解釈する能力がなかった。つまり、「日本語」の意思伝達能力がない。その会社は、仕事がなくなる事実を突きつけられないと、「分からん」会社のようである。その会社の幹部は、言葉を「学校文法」で理解しただけであった。高度な社会では「伝達文法」で情報が伝達される。そしてその後は、何もなかったかのようにノーテンキに仕事の提案をしてくるが、見切りを付けた私は、別の会社へ切り替える段取りを静かに開始した。そうしないと、私の首と私の会社が危ないからだ。責任者の役割は、「組織の成果を出し、部下を幸せにする」である。

業界のDNAの格差

 会社にはもって生まれたDNAがある。自動車部品メーカはそのDNAで動いている。今回の事象でコンピュータ屋と自動車部品メーカのそれとは大きな違いがあることを再認識した。コンピュータ業界はコンピュータ画面だけで仕事をする体質が影響するのか、汗をかいて製品の品質を死守するとの姿勢が製造業に比べて希薄だと感じた。コンピュータは自動車と同じで、人類が初めて自分の思いのままに操れる快感を得ることができた初めての機械であった。人はその性能ゆえに人との関与を忘れて、そのご主人様の特権に酔いしれる事もあるようだ。それが遠因で、コンピュータを使えば全て何でもできるとの思い込みが、人とのコミュニケーションを希薄にしたようだ。その体質から来るせいか、生のユーザーの声を聞こうとしない体質になっているようだ。DNAは会社の危機状態の時、その本質が浮かび上がる。

首を吊らんと分からん人

 ある経営者が経営に行き詰まり、その事情を察知した友人の社長が何とか助けようと手を尽くしたが、力及ばずで、その経営者は首を吊って全てを精算した。その社長は援助の手の力及ばずを悔やんで、師と仰ぐ禅僧に、その事を懺悔したら、「その人は、首を吊らんと分からん人であったのです。あなたが、そこまで悔やむ必要はない」と慰められたという。

日本の自殺者

 日本では年間34,000人弱が自ら命を絶つ(2003年当時、2015年は24,025人)。その内、35%は自営業者である。実に12,000人弱である。また全自殺者中、管理職は6%(約2,000人)にも達する。中小企業の経営者や大手企業の管理職は、命懸けでビジネスス戦争を戦っている。特に自営業の経営者は孤独である。孤独であるからこそ、自分の能力を高めないと生き延びられない。危ない事象は全て事前に表れている。それをどう解釈し、どう行動に結びつけられるかが問われる。それが知恵である。知識がいくらあってもダメなのだ。人が過去の記憶の全ては、脳の中にしまわれている。死の直前に、過去の全ての記憶が走馬灯を見るかのように、一瞬のうちに記憶の撮影フィルムが超高速で、目の前を横切るという。首の肉に縄が食い込む時、薄らぎゆく意識の中で、全てを理解するのだ。しかし、その時では遅い。あなたは、首を吊らんと分からん人ですか?    (2003-08-24 初稿)

 

2017-07-25

久志能幾研究所 小田泰仙  HP: https://yukioodaii.wixsite.com/mysite

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