内弟子採用、観音菩薩の目で「現地現物」
組織への採用は、その人の人生を左右する。採用とは、組織と個人のお互いの金儲けではなく、その人の幸せに関係する人事なのだ。
大仏師・松本明慶師は、内弟子の採用決定時、単にその候補者と面談するだけでなく、その候補者の仕事場に出かけて、その人の仕事ぶりまで見てから、決定する。
また内弟子として正式に採用する時には、両親と面談して仕事の実情を説明してから採用の最終決定をする。両親とは、その人を育てた佛様なのだ。佛を見れば、その子が分かる。
現地現物
これはトヨタウエイの「現地現物」そのものである。松本明慶師はそれを現地現人で、人を判断している。
私も現役時代に途中入社の人を面接したことがあるが、しかし1時間くらいだけの会話でその人の評価はできない。それでも実際に面談すると多くのことが分かる。セブンイレブンの鈴木敏夫会長も同じことを言っている。面接でできることは、あくまで異常値(非常識人)の排除だけである。
「現地現物」は英語の訳の方が分かりやすい表現である。
Gennti gennbustu : Go and see by yourself thoroughly understand the situation.
ジェフリ・K・ライカー著『THE TOYOTA WAY』より
私の面接試験
私が会社の人事部長なら、人の採用時にはあるテーマで文章を書かせて、それで評価をするだろう。人の頭の中と能力は、書かせてみれば一目瞭然である。何も考えていない頭からは、何も出てこない。これは胡麻化しようがない。
野崎宗慶師の内弟子採用
仏師・野崎宗慶師は、最後の京仏師として名高い大御所であった。師が82歳の時、19歳の松本青年が人から推薦されてやってきた。一目でその才能を見ぬいた野崎宗慶師は、松本青年をその日に内弟子に採用した。野崎宗慶師にとって初めての内弟子である。野崎宗慶師は、仏像彫刻の修行を松本青年にマンツーマンで始めた。老師は持てる技を口伝で全て伝えると、1年後にこの世を去られた。それで今の松本明慶大仏師がある。
住宅メーカの採用
家の選択でも同じである。内弟子とは、自分の「後世」を託すような存在である。名人によっては一生で一人しか内弟子を取らなかった野崎宗慶師の例もある。名人と呼ばれるような人でないと、内弟子の才能は見抜けまい。
家を買うとは、人生でたった一人の内弟子を採用すると同じなのだ。そういう覚悟で選択したい。
凡人の私が住宅展示場のモデルハウスを一見しただけでは、家の真偽は判別不能である。実際に自分の目で確認して、実際の生活を体験しないと分からないだろう。実際には、凡人は、内弟子を採用する時に、異常値を排除するしかやれないのが現実ではある。
せめて観音菩薩が衆生を観るように、住宅メーカが発する「音」を観て、何が真実かを見極める精進を続けたい。
2021-11-21 久志能幾研究所通信 2215 小田泰仙
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