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2019年10月 1日 (火)

「力神」は吾なり、魂なり

 松本明慶大仏師は慶派の伝承者として、「人の心には、佛も住めば鬼も住む」という口伝を踏まえて仏像を作っている。日本では、鬼は身近な存在として共に暮らしを支えていた。家の鬼瓦を守り神として掲げるように、毛嫌いされる存在ではない。鬼嫁とか鬼婆との表現で負の表現もあるが、仕事の鬼、道を守る鬼とか、正の表現もある。鬼は身近な存在である。その鬼が云うと書いて「魂」である。己を見つめ叱ってくれる存在を明慶先生は「魂(オニ)」として仏像彫刻で表現した。下記の「魂(オニ)」は長く私の机の上から、私の勉強ぶりを監視してもらった。厳しい表情で睨んでもらった。大事な私の仏様である。

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 「魂(オニ)」 松本明慶大仏師作 

 

自分を支える存在

 自分を見えないところで支えているもう一人の存在こそ主人公である。自分は、顕在化された意識と潜在意識に支配されたもう一人の己が、行動を支配している。頭では考えていても、実際に行動に現れるのは潜在意識での行動が大部分である。何故あんなことをしたのかと後悔する時も、主人公の潜在意識がそれをさせている。その主人公が「魂(オニ)」である。

 そういう生活を過ごすのは、何十年と頭と体に沁み込んだ潜在意識の問題である。ご先祖や親から、何千回も教えられた習慣や考え方が潜在意識である。その意識の1割が顕在化して行動に表われるが、その9割の大部分は潜在意識として表には表れない。まるで海に浮かぶ氷山の一角のような存在である。

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鬼の役目

 自分の体とはご本尊である。鬼にはその行動の監視役の役目と、自分の体を守ってくれる2つの役目がある。自分の体を黙って支えて守ってくれる存在が力神である。それが体の免疫力であり、潜在意識で育てられた強靭な精神である。それがなければ、外部のばい菌で人間はすぐに死んでしまうし、精神がヤワでは社会の荒波にもまれて沈没してまう。

 鬼(力神)は何があっても自分を守ってくれるが、己が体を酷使する悪い生活をしてそれが限界を超えた時、病気の発病となる。誰のせいでもない。己の生活習慣の悪さが病気の原因である。精神がそれに負ければ鬱病になってしまう。運が悪いわけではない。人が悪いわけではない。己を守る仏様の「限界だよ」とのメッセージが病気なのだ。鬼が云うと書いて「魂」である。病気は己の魂が助けを求める叫びである。

 

佛の力

 自分が世を儚んで首を吊る時も、最後の最期まで、生きてくれよと血液を全身に送り、肺を動かしている働きが佛である。体を支える37兆個の細胞の働きを佛の力と言わずして、なんという。それも鬼の役目である。

 

佛の具現化

 仏師の松本明慶先生は「俺は夢の中でも仕事をしている。そこで浮かんだアイデアを起きてから、彫って形にする」と、先日、静岡伊勢丹の松本明慶仏像彫刻展の会場で私に言われた。そのアイデアを形にしたのが「力神」である。

 本来は、佛である力神は、岩の中に埋没して見えない。その岩を取り除くと、下図のように力神が己と言う御本尊(下図はお不動さん)を支えている。

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 「力神」松本明慶大仏師作

 「力神」と持ち上げている岩は一木彫り。上の不動明王は白檀製。

 写真は松本工房の許可を得て掲載しています。

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 馬場恵峰書「佐藤一斎「言志四録」五十一選訓集」(久志能幾研究所刊)より

 

2019-10-01   久志能幾研究所通信No.1354  小田泰仙

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