新入社員に教える「死への準備」
私が入社したばかりの新入社員に、「修身」の講義で問うたことは、死への準備である。サラリーマンには、定年が人生の一区切りとしての「死」である。その死である定年までの働き方を問うた。
死を意識して働こう
今を必死に生きるために、死を意識しよう。万物には必ず死がある。期限がある。人生の半分を占める会社生活にも、定年と言う「死」がある。入社したら、38年後に訪れる死(定年)を見据えて仕事をしよう。それが時間創造である。そう新入社員に教えた。
定年があるから、組織の新陳代謝が進み企業が成長する。100年前の先輩がいつまでも居座っていては、部下は閉口である。人間の手も、母親のお腹の中で指と指の間の組織が死ぬことで、指のある手に成長する。死なくして成長はない。過去の自分を殺すことで、自分も成長する。
組織として成長できない企業が倒産する。会社の寿命は30年である。長寿会社は常に変化成長している。成長しない企業には、競争社会で倒産と言う自然淘汰が待っている。
個人的に定年と言う死を迎えるには、38年間の仕事のやり方が、定年後の時間の創り方に影響する。定年までの時間の過ごし方で、会社に残す付加価値で差を生み、定年後の時間価値を決める。
貴方がたは、入社後、勤続38年間(13,870日)もの時間をかけて、どんな資産を創っていくのか。「老いて」何を後進に「置いて」行くのか。定年後の30年をかけて、どんな価値を残して、あの世に逝くのか。考えて仕事をして欲しい。
技術者として、やってきたことを記録に残さないと、何もやらなかったと同じになってしまう。私は、そう思って記録に残すことを心がけてきた。それでこの講義が成立した。
新入社員教育テキスト「修身」2005年
管理職としての「死」の意識
私が先輩から教えてもらった管理職の心得は、「その職場の長としての任期は4年間。1年目は職場の観察、2年目は何をやるか決めてその種を撒く、3年目はその成果の回収、4年目は後進を育てて、後を託す」であった。
定年後
定年と言う「死」を迎えて、会社時代の肩書や地位は、退職すれば無価値になる。なまじっかプライドがあると、負の遺産となる。会社時代に、人生の価値を創れなかった元エライさんが、老人ホームで「私の上席はどこですか?」とKY語(空気の読めない語)を発し、周囲の失笑をかうのだ。定年後の家で、妻から粗大ゴミ扱いをされるのだ。そうなっては、人生はお終いです。
定年後の粗大ごみ扱い
先日、名刺を整理していたら、30年前、仕事でお世話になった業者の人の名刺が出てきて、懐かしくなり、その場で相手の自宅に電話をかけた。電話に出た相手の妻は、夫に「オダって人から電話!」と不機嫌そうな、迷惑そうな声で夫に声をかけた。その声は私に丸聴こえである。それで彼の家での妻からの扱いが分かってしまった。だからそれ以降、その家には電話をかける気がしなかった。再会する気にもなれなかった。それは彼が38年間をかけて、積み上げた負の財産である。彼が退職した会社でも、その価値が分かるような気がした。
余命宣告
私も今年、癌で余命宣告を受けて、死を身近に見て、人生の残り時間を意識させられた。死を意識するから、やるべきことが浮かび上ってくる。緊張感をもって生きることが出来る。日暮れて途遠し、を痛感させられた。
「人生の短さについて」
人生は短いわけではなく、我々は十分な時間を持っているのだ。ただそれを多くの人は空しく浪費しているだけだ。
彼らに共通するのは、真に自分に属しているものに頼らず、彼らの権内にない外なるものをあてにし、それに依存していることだ。今を生きないで、未来のよい生活を夢みて今を犠牲にしていることだとし、そういう人間は生きているのではない、ただ生存しているだけだと断言する。 p 32
時間の浪費
その原因はどこにあるのか? 君たちはあたかも自分は永久に生きられるかのように今を生きていて、自分のいのちの脆さに思い致すことは決してない。いかに多くの時間がすでに過ぎ去ったかを意識しない。時間なぞ無尽蔵にあるもののように君たちは時間を浪費している。そうやって君たちがどこの誰かに、あるいは何らかの事に与えているその日が、実は君たちの最後の日であるかもしれないのに。死すべき者のように君たちは全てを怖れ、不死の者であるかのようにすべてを得ようとしているのだ。 p 35
中野孝次著『ローマの哲人 セネカの言葉』岩波書店2003年より
馬場恵峰書
頂いた命をただひたすらに活かして生きる。そこから始めないと仏様のご加護も始まらない。命を粗末にして人生は拓けない。みほとけが求められているのは、命を最大限に活かして生きること。それが世のため人のためになる。そうしないと世の中の迷惑な存在に成り下がる。「一日一生」の心がけで生きる。
2019-08-27 久志能幾研究所通信No.1319 小田泰仙
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