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2017年12月15日 (金)

安藤忠雄の挑戦

 2017年12月14日、国立新美術館で開催中の「安藤忠雄展―挑戦―」(12月18日迄)に余裕を持って、東京六本木に出向いたが、「安藤忠雄展」だからと安心して(そんなに観客は多くないだろうと)行ったのが間違いであった。

 確かに入場券売り場は空いていたが、会場内の観客が、作品の前から動かないのだ。その動く速度の遅さは運慶展と勝るとも劣らず、である。25メータほどの長さのコーナでは、40作品ほどが一直線に展示され、作品ごとに模型、写真、説明、ビデオのセットで展示され、そこから人が動かないのだ。すり足でしか進まない。特に若い人や女性も作品にくぎ付けである。結局、1時間半ほどを費やしてしまった。久しぶりに見ごたえのある展示会であった。

 

「光の教会」

 中でも圧巻は、会場内に代表作「光の教会」の原寸大モデルが建てられてあったことだ「建築は模型や写真を見るだけでは足りない。実際に体験してもらわなければ、建築家がそこに込めた気持ちは伝わりません。200坪のテラスを展示に使っていいというので、じゃあ1分の1スケールでつくってしまおうと考えた。材料はもちろん本物と同じコンクリートを用いています。展示品ではあるけれど、東京都に確認したらこれは美術館の『増築』扱いになるという。慌てて許可申請をして、何とか間に合わせましたよ」(週刊文春 2017年10月19日号)

 写真や模型では体験できない、生の作品である。教会というキリスト教の関係であるが、宗教を超越して、建築作品の祈りの場の創造として感動した。全ての飾りを削ぎ落し、まるで水墨画を見るような風景である。祈りには、宗教の差などは関係ない。宗教は、その根源はみな同じである。国や民族で、それに合わせて変化して生まれ育っただけで、宗教の基本概念を縦に切ったり横に切ったりして、その見た目が、丸であったり、四角であったりするに過ぎない。

 この「光の教会」だけは、撮影が可能です。

 

光へのこだわり

 安藤氏は光にこだわりがあり、「人生に「光」を求めるのなら、まず目の前の苦しい現実という「影」をしっかりと見据え、それを乗り越えるべく、勇気を持って進んでいくことだ。」、「人間にとって本当に幸せは、光の下にいることではないと思う。その光を遠く見据えて、それに向かって懸命に走っている、無我夢中の時間の中にこそ、人生の充実があると思う。」との考えが、この教会の設計に現れているようだ。

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闘いの勲章

 氏は、建築という分野で、如何に建築の目的を、持てる才能と環境を全て生かして、自然に溶け込む作品作りの邁進してきた。今は、2009年に胆嚢・胆管・十二指腸、2014年に膵臓と脾臓にがんが見つかり全摘した身である。それでも元気に建築を通して希望と夢と勇気を持って生きることの大切さを伝えたいと、今でも毎日、創造に邁進している。まさに超人である。建築作品は安藤さんの命なのだ。だから作品としの「建築の命を育てる」というのも氏の信条である。

 

現地現物

 安藤氏の言葉「私もこれまで、数々の教養人と出会ってきましたが、やはり本当に教養がある人は、「現場に足を運ぶ」ことの重要性を知っているように思います」。「好奇心を失ってしまった人がその気持ちを取り戻すには、とにかく行動してみることです。とにかく現場に行ってみれば、必ずそこで心を動かされる何かと出合えます。そういう体験を何度もしないと好奇心なんて育ちません。」

 私はこの言葉には共感できる。実際に「安藤忠雄展―挑戦―」の会場に来なければ、また運慶展などで、まじかで実物を見ないと、その感動は伝わらない。トヨタの現地現物の考え方そのものである。だから、私はなるべく機会があればどこでも出向くようにしている。

 

安藤忠雄

 日本の建築家。大阪出身。東京大学名誉教授。高校卒業後、独学で建築を学ぶ。「住吉長屋」で日本建築学会賞を受賞。独自な建築表現を確立し様々賞を受賞。世界的な評価を得ている。東京大学工学部で教授、イエール大学、コロンビア大学、ハーバード大学、南カリフォルニア大学などで客員教授を務めた。そのほか、多くの公職を歴任した。

 

2017-12-15

久志能幾研究所 小田泰仙  e-mail :  yukio.oda.ii@go4.enjoy.ne.jp

HP: https://yukioodaii.wixsite.com/mysite

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