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2017年7月13日 (木)

社是とテクニカルライティング

◆ クライテリア

 文書でのクライテリア(criteria =判断・評価の標準、基準、尺度)は、トピックセンテンス(主文)で表される。企業のクライテリアは社是、会社の基本理念、社訓等で表される。会社の社是は、会社の魂である。クライテリアが明確な文章は、読んでいて気持ちがいいし、理解も速く、文書での伝達効率が高い。

 下記のデンソーと松下電器の社是は読んで、見て、声を出して読んでも、美しいと感じる。その結果として世界に通じるトップ企業として、いきいきと「生きている」のを感じる。社会から生かされている。企業を支えるのは人である。その社員の行動を規範するのは社是である。良い社是は、結果として業績のよい企業が一般的に多い。

 この2社の社是は各種の共通点がある。この社是からは、企業使命としてまず社会への奉仕、従業員の人間としての成長と幸福の達成を宣言している。社会への奉仕は単に金儲け企業でないことを宣言し、現実に社会に奉仕することで、社会から生かされている、結果として企業は繁栄(共存)している。同じことが従業員の幸福を願う意図が社是から感じられる。また企業人として自己の成長がなければ、企業の発展はあり得ない。企業は人なり、である。

◆情報の形

 そしてテクニカルライティグとしての文章の美しさ(情報伝達の強さ)と技法の美しさである。いくら真実を語っても、数十年にわたって数十万人の心に訴えかける文章は、それなりの形とエネルギーが必要である。武道、芸事、スポーツでもまず形から入るように、社是でもその形が重要となる。この文章は、目的項の明瞭さ、項目のパラレリズム、そして文章の終わりの動詞形の統一(項目の名詞形での統一)で隅々まで気が使われている。特にデンソーの文章はやさしい表現で、力強い意図を感じる。

 さらにデンソーの社是では色使いまで気をつかっている。ここでは紫の字体で表現したが、オリジナルのカタログでは紫の地に白抜きの字体で表現されている。紫とは皇室の色とか高貴なイメージの色彩である。デンソーは色使いまで気をつかっているのに感動した。デンソーの社是は、当時の日本電装のトップが早稲田大学の篠田教授と面識があり、英訳しても世界に通じる社是を作るため、社長と会長自らが上京して篠田教授に指導を仰いで作成された。

◆ 行動の形

 ある工場見学会(1999年)で聞いた話では、デンソー安城工場の一部門ではその部門のトップの指示で、週に一回、全員で社是を唱和している。松下電器でも毎朝の朝礼で、トップ以下社員全員がこの社是を唱和している。トップ企業にはトップ企業たらしめる、クライテリアと行動が存在する。唱和とは自己にかける暗示である。これが社員の行動を自律的で崇高なものにする。

私の趣味は人間ウォッチングで、会社ウォッチングにも興味がある。ある会社と縁が出来た時は、必ずその会社のカタログで社是を確認する。社是を見れば、付き合うべき会社かそうでないかの判断が出来るからだ。次にデンソー、松下電器の社是を記述する。

 

デンソー基本理念

社会の使命

 世界と未来をみつめ

 新しい価値の創造を通じて

 人々の幸福に貢献する

 

経営の方針

  • 魅力ある製品で お客様に満足を提供する
  • 変化を先取りし 世界の市場で発展する
  • 自然を大切にし 社会と共生する

④個性を尊重し 活力ある企業をつくる

 

社員の行動

 ①大きく発想し 着実に実行する

 ②互いに協力し 明日に挑戦する

 ③自己を磨き 信頼に応える

 

THE DENSO PHILOSOPHY

 

Mission

Contributing to a better world by creating value

together with a vision for the future

 

Management Principle

Customer satisfaction through quality products and services

Global growth through anticipation of change

Environmental preservation and harmony with society

Corporate vitality and respect for individual

 

Individual Spirit

   To be creative in thought and steady in action

   To be cooperative and pioneering

   To be trustworthy by improving ourselves

 

松下七精神 (松下電器の遵奉すべき七精神)

 1.産業報国の精神

  産業報国は当社綱領に示すところにして、我等産業人たるものは本精神を第一義とせさるべからず。

 1.公明正大の精神

  公明正大は人間処世の大本にして、いかに学識才能を有するも此の精神なきものは以て範とするに足らず。

 1.和親一致の精神

  和親一致は既に当社信条に掲ぐる処。如何なる優秀の人材を聚むるも此の精神に欠くるあらば、所謂烏合の衆にして何等の力なし。

 1.力闘向上の精神

  我等使命の達成には徹底的力闘こと唯一の要諦にして、真の平和も向上も此の精神なるはかち得られざるべし。

 1.礼節謙譲の精神

  人にして礼節を紊り、謙譲の心なくんば社会の秩序は整わざるべし。正しき礼儀と謙譲の徳の存する処社会を情操的に美化せしめ、以て潤ひある人生を現出し得るものなり。

 1.順応同化の精神

  進歩発達は自然の摂理に順応同化するにあたわざれば得難し、社会の大勢に即せず人為に偏する如きにては決して成功は望み得ざるべし。

 1.感謝報恩の精神

  感謝報恩の念は吾人に無限の悦びと活力を与ふるものにして、此の念深きところ如何なる艱難をも克服するを得、真の幸福を招来する根源となるものなり。

 

2017-07-13

久志能幾研究所 小田泰仙  HP: https://yukioodaii.wixsite.com/mysite

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