巡礼 小貫善二作陶展 レッドオーシャンからブルーオーシャンへ
マーケティング
小貫さんは右手に陶芸の夢を持ち、左手に算盤を持ち、背中に我慢を背負って、人里離れた山奥(に相当する地)で陶芸に没頭している。
小貫さん作品は、持てる情熱と賢さで世界の扉を開けて道を進んできた。師はゴッホのような破天荒な生き方の芸術家ではない。師は天才肌の芸術家ではないが、その攻め方は孫子の兵法とエジソンの愚直さを兼ね備えた賢さと緻密さがある。
小貫さんは陶芸の学歴もなく、芸術界の後押しもなく、その世界の師匠の後押しもなく、自力で世界の扉を開いて道を歩んできた。非力な戦士に出来ることは、兵法を正しく使うことだ。
かの織田信長だって、尾張の兵が極端に弱かったから、鉄砲や奇策でそれを補って戦ったのだ。無名時代の信長は苦労している。それに比べて当時の今川氏は大国大軍であるので、正攻法で攻めればよかったのだ。織田信長はそれに対して、桶狭間で奇襲作戦を取った。そして勝った。長篠の戦では、日本最強の武田軍に対して鉄砲を使って勝った。織田信長は尾張の兵が弱かったから、智慧を出して戦わざるを得なかったのだ。
(不思議なご縁があり、私はこの9月21日、桶狭間の地の画廊に行ってきた。すぐ近くで40年間ほども住んでいて、今回が初めての訪問であった。)
小貫さんは、日本内の過当競争の世界を避け、欧州にその活路を求めた。過当競争の世界は血みどろの戦いがあり、それは経営学的に「レッドオーシャン」と呼ばれる。経営戦略的にそれは避けるべきである。過当競争は、無意味な労力を強いられる。無駄な血が流れる。師はそれを避けて海外に目を向けた。そこは競争相手のいないブルーオーシャンである。
海外進出
師は日本ではなく、海外で評価してもらおうと、数十点の作品を作る。海外に行くために、まず海外に行く費用と作品の輸送費用の合計50万円を貯めてから、その計画を実行した。1立法メータのコンテナに60点ほどの作品を詰めて欧州に送ると35万円ほどかかる。15万円は渡航費とホテル代である。それを年に一度実行して、それを3年続けた。1995年ごろの話しである。先に欧州に飛んで、作品を売って資金を作ったのではない。順序を経て、石橋を叩くように計画を進めた。それは身近の陶芸家が自己破産をしたのを見ていて、破綻のない手法を選んで進んだ。師はきちんと算盤をはじいてプロジェクトを進めた。
エジソン式絨毯爆撃?
そして欧州の陶芸雑誌の広告ページに載っている陶芸専門の画廊を訪問し、送った作品を展示してもらう方法を取った。高級品しか扱わない画廊もあり、門前払いをされたこともある。しかし行ってみなければ、それも分からない。トヨタ生産方式でいう「現地現物」である。それでも3年間、それを続けた。海外でも陶芸専門の画廊は少ない。それでそういう手法を取らざるを得なかったいう。
エジソンも電球を開発する時、9999回のエレメントの実験を経て、やっとタングステンのフィラメントを発見できた。愚直に目的地に進まないと、プロジェクトは成功しない。小貫さんは、欧州の焼き物を扱う画廊を全て訪れて、自作の陶器を見てもらった。エジソンと同じ情熱である。
国立美術館にお買い上げ
そういうふうに作品を画廊に置いてもらうようになると、彼の作品を認めてくれる画廊主が出てきて、そのつてでドイツのライプツィッヒ美術館、ベルリン陶磁器美術館、ダーレム美術館(ドイツ)等にお買い上げとなる偉業が出来た。彼の芸術作品が本物であった証しである。海外で有名になり、深せんの中国陶磁器展からも招聘され、その深せん美術館にも蔵品となっている。
日本でくすぶっていれば、決してそんな展開にはならない。同業者がその件を不思議がっているが、彼は人がやらない行動を選択したから、そういう結果となっただけだ。人生は努力よりも選択が重要である。要は、「レッドオーシャン」を避け、ブルーオーシャンで勝負をする。それが賢さである。
ライプツィッヒ美術館の蔵品目録より
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陶芸の激戦区
美濃地方は陶芸のメッカである。美濃焼、多治見焼、瀬戸焼、織部焼と競合が群雄割拠である。その中に戦いを持ち込むのは芸がないので、小貫さんは独自の陶器のランプや独自の陶芸作品で、勝負している。私には初めての陶器の世界で、なかなかに見ごたえがある。
普賢菩薩
私の理想の仏様は普賢菩薩である。この世で自分を花咲かせるには、知識や智慧だけでは駄目で、それに加えて賢さが必要だ。菩薩とは、真の仏を目指して歩く修行僧である。私は、その陰を小貫さんの活動に見た。陰とは、佛光に照らされて、黒夜に浮かび上がる真の姿である。非力な私は、強敵と正面激突しては勝ち目がないと自覚している。理不尽な敵や天才肌の敵のいない海でなら、努力を続ければ自分の力が100%発揮できる。それがブルーオーシャンである。それを再認識させてくれた展示会である。
松本明慶大仏師作 普賢菩薩像
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2023-09-25 久志能幾研究所通信 2746号 小田泰仙
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