2019年2月3日、第10回浜松国際ピアノコンクール(以下、浜コン)の裏話を語る梅田智也さんのトークセッションと梅田さんのピアノコンサートが、名古屋ヤマハホールであった。そこで梅田さんが語ったピアノ選定の舞台裏のお話です。
梅田さんは先の浜コンで、セミファイナリストに残り、日本人作品最優秀演奏賞を受賞した。
ピアノ選定
浜コンで、挑戦者に与えられたピアノ選定の時間は10分間である。ヤマハ、スタンウェイ、カワイの3台のピアノの弾き比べであるから、実質的に9分間で、3台のピアノを各3分間弾いて、どれを選ぶか決める。そのピアノは舞台上に3台置かれている。問題は、舞台の中央に置かれたピアノの響きが一番良いのだが、自分が弾きたいと予め想定しているピアノが何処に置かれているかは、その時にならないと分からないことだ。その3台のピアノは公平を期すため、ある順番ごとに、舞台の上で回して入れ替えられる。各ピアノもメーカーのトップ調律師が命を掛けて調律したのだから、最高レベルに仕上がっている。その差は分からない。どのピアノの響きが一番番いいかは、置かれた場所で全く異なって聞こえるので、益々わからないという。まさにロシアンルーレットである。
梅田さんも、限られて時間内で3台を弾き比べしても、全くわからなかったという。舞台を支援するスタッフも、挑戦者のほぼ全員が、ピアノの差は全く分からないというと言っていた。
手がかり
唯一、その手掛かりは、ピアノ選びの挑戦者に、前の順番の挑戦者がピアノ選定で試弾している時間を、そのピアノの響きを観客席で聴くことができること。中央で弾かれているピアノの響きや両端に置かれたピアノの響きで、その鳴り方を推定するしかない。またそれも聴く場所で、違って聞こえるから厄介だ。浜松の中ホールでは、審査員席がある二階席が、音響的に一番良いようだ。
決め手
だから挑戦者がピアノを選ぶのは、今まで数多く弾き込んで、素性の分かったピアノを選ぶのが順当のようだ。梅田さんの場合、CFXの高音の澄んだ響きに惚れてヤマハCFX を選定したという。
たしかに、私も浜コンで、今までにない澄んだピアニシモの音を聞いて、すごいなとヤマハCFXを見直した。調律師の花岡さんの力である。挑戦者もヤマハの指名が一番多かった。
己の「ピアノ選定」の基準
我々も、人生で数人の候補者の中から、人生を戦うための相棒一人を選ばねばならぬ状況に直面することがある。それは結婚相手やリストラ対象者、昇格対象者、後継者の選定、その場合の判断基準は、その時の特別の振る舞い(プレゼン)ではなく、日頃に接した行動から判断するのが一番、自然である。その場だけや、お見合いの席の時だけ一番格よく見せても、ダメなのだ。己の「ピアノ選び」の基準は何かを、振りかえろう。
経営の場での「ピアノ選定」
その選定の失敗事例では、シェイクスピアの戯曲「リア王」が思い浮かぶ。この戯曲は、虚言を言う姉妹に騙された愚かな王の物語である。最近頻繁に目にする不祥事を起こした会社のトップは、間違った「ピアノ選定」で選ばれたのだろう。大企業の社長といえども、「リア王」を笑えまい。
今にして何故、ソニーのストリンガーが社長に選定されたのだ。グローバル経済主義、短期成果主義を掲げた彼が、ソニーを没落させた。彼を選んだ前社長の責任は重い。成果主義で一時的な成果を誇っても、永続性はないのだ。企業の最大の役目は永続性である。
己の使命も、ご先祖から預かった命を長らえさせねば、達成できない。刹那的な快楽に身を任せて、命を削ってはならぬ。
2019-02-08 久志能幾研究所 小田泰仙
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