肺がん疑い、Go To 地獄

 

 人生の回数券を大事にしよう。老いた親、老いた師、老いた友、老いた己と、あと何回会えるかを考えよう。老いた己の歳と健康状態を見定め、除夜の鐘を聞ける回数を計算しよう。それがそんなに多くないことを確認しよう。

 

回数券が無効

 還暦を過ぎれば、その回数券が無効になる確率はみんな同じである。還暦後に使える回数券の数は限られている。当方がその回数券を使える元気さがあっても、老いた親や老いた師が死の直前になれば、残りの回数券が無効になる。一回の回数券を使えば、使える機会は一回減る。「Go Toトラベル」とは、人生回数券の「Go To 取ら減る」。

 

最後の面会

 今回の面会が最後の利用かもしれない。そう思って昨年末に馬場恵峰先生に1泊2日で4回、計8回お見舞いに行った。歳月は人を待ってはくれない。

 恵峰先生の最後の言葉が「縁あって花開き、恩有って実を結ぶ」であった。恵峰先生は病床で、何度もその言葉を口に出された。私は良き師とのご縁があり、幸せであった。

 人の明日は分からない。だから一期一会として、今回の出会いがこの世の最後と覚悟して、全力で向き合うべきなのだ。日の暮れぬうち、生きているうちである。

 

師は年上、必ず先に逝く

 相手どころか、自分が交通事故、心筋梗塞や新型コロナで、明日死ぬかもしれぬ。そうなれば所有の回数券は全て無効となる。

 この2年間で、私は師を5人も突然に失ってそれを痛感した。人の明日は分からない。それをこれほど痛感したことはない。

 

肺がんの疑い

 そうしているうち、この2021年2月12日、愛知県がんセンターの定期検診でCTを受けたら、非喫煙者の私が「肺がんの疑いがあり」と診断された。現代は非喫煙者の肺がんが増えているようだ。特に夫の喫煙で、妻が副煙流で肺がんや乳がんになるケースである。私も昔の職場での副煙流被害を思い起こした。それで肺がん手術の準備や心の準備で落ち着かない日が続いた。

 一度がんを罹患している身には、「肺がんの疑いがあり」は死刑宣告みたいなものである。地獄行きの宣告である。幸い、2か月間の経過観察の後、4月27日に肺がんの疑いは消えた。

 

 最近の検査では医師が過剰に反応するので、グレーでも肺がんの疑いありと診断されてしまう。見落としで手遅れになるよりはまし、と思わねばならぬ。医師も見落とせば、誤診で訴えられてしまう時代である。

 今回の誤診で再度、命の回数券の限度を再確認させられた。「時間は命」を再確認した。

 

回数券入手は不可

 師や友と10年の出会いがあれば、10年の縁が生まれる。多くの人は、日頃の回数券は無限にあると思って使っているが、ある日に突然、医師から余命宣告されれば、その回数券は大金を積んでも手に入らなくなる。

 だからこそ、師や友との出会いは、悔いのない出会いにしなければならぬ。そこまでやってくれるのかと、師や友を感激させてこそ、真の師事である。私はそうやって、悔いのないようにしてきたつもりだが、現実は悔いばかり。

 

最期の教え

 孝行したいときに親はなし。いつまでもあると思うな、親とカネ。同じように己の命も日々尽きていく。だからこそ今を精一杯生きよう。親と師の最期の教えが「あんたも何時か死ぬのだよ。悔いのない人生を送れ」である。 

039a15511s  馬場恵峰書 

2021-04-30 久志能幾研究所通信 2004  小田泰仙

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