2019年2月3日、第10回浜松国際ピアノコンクール(浜コン)の裏話を語る梅田智也さんのトークセッションとピアノコンサートが、名古屋ヤマハホールであった。そこで梅田さんが語った舞台裏のお話である。梅田さんは先の浜コンで、セミファイナリストに残り、日本人作品最優秀演奏賞を受賞した。
審査
まず郵送によるDVD審査で、380人の応募者があり、そこから6月1日に一次予選の合格者が発表される。一次予選では、95人の合格者である。実際は辞退者があり、88名で一次予選のコンクールを闘った。
一次審査前の約3.5か月前に課題曲の連絡が事務局から来た。
9月末、本番で何を演奏するかのプログラムを事務局に提出する。
自分の力量を見せるため、いろんな面を各ステージで見せるため、曲の選定が重要である。
公式練習
会場での一次審査の公式練習時間は、4時間である。二次審査の練習時間は12時間が与えられる。ヤマハ、スタンウェイ、カワイの各社は、計30台のピアノを挑戦者のために会場のホテルに持ち込んだ。
場所が、浜松という日本の中央であるし、一次予選は5日間の長丁場であるので、一度、自宅に帰ってそこで練習をしてくる仲間が多かったそうだ。浜松で宿泊した仲間は、皆で食事に行ったりしたという。海外でのコンクールに比べて、リラックスしてコンクールに臨めるので良いという。一次予選の1日目と5日目の参加では、準備の仕方が違う。それはコントロールできず、運命である。
ピアノ選定
ピアノ選定の裏話は先のブログに記載したので、そちらを参照ください。
「浜松国際ピアノコンクール(11)ピアノ選びはロシアンルーレット」
調律
参加ピアノメーカは朝6時から9時までが調律に充てられる。各社1時間の時間である。夜は21~24時が調律の時間である。調律師は演奏中も自分が調律したピアノの様子を見ていなければならず、仕事は早朝、深夜になり大変である。各ステージの間の僅か20分間の合間でも、調律は行われる。
調律師の心遣い
多くのスタッフが出演前に声をかけてくれるが、その多くは「頑張ってね」である。梅田さんは、それは逆にプレッシャーを感じることがあるという。相手は悪気があって言う訳ではないので、気にしてはいないという。
今回、三次予選の前に、調律師(ヤマハの花岡さんと推定)から「楽しんでね」と言われたという。調律師も、他社を蹴落とすために調律をしたのではない。あくまで、自社のピアノを音楽的に最高レベルに調律したのだ。調律師はそれに命を掛ける。可愛い我が子が晴れ舞台でその技を披露するのだ。多くの研鑽を積んできたコンクール挑戦者が、他社を差し置いて我が子を選んでくれて、聴衆にその持てる実力をお披露目してくれるのだ。それは楽しい出来事なのだ。だから、調律師は、「(我が子と音楽演奏を)楽しんでね」と言ったのだ。それで梅田さんは気が楽になり、コンクールという場を忘れて、存分に演奏をできたという。音楽は魂の舞いなのだ。評価する人ごとに、その評価が変わる。それに振り回されたら、音楽に本質から外れてしまう。
梅田さんは、同時期、もっと格下のコンクールに応募したが、予備審査で落ちたという。だからコンクールで実力判定が正しいかどうかは、神のみぞ知るである。それは時代の流れや流行もある。100年後に評価される芸術家はごまんといる。
音楽のかかわり方
下記は梅田智之さんの考えである。
梅田さんは、聴衆とどれだけ良い関係を築けるかに心を砕いて演奏しているという。技を競うのが音楽演奏ではない。コンサートは、音楽の良さを聴衆に伝える場なのだ。演奏家はそれの伝教者なのだ。演奏家の技の見せびらかしではないのだ。
良いピアノとは、体の一部である。ピアノは音楽を伝えるフィルターであり、楽器ではないのだ。ピアノを己の体の一部になるまで、弾き込む必要があるのだ。それには長い年月と血のにじむ練習が必要だ。
2019-02-09 久志能幾研究所 小田泰仙
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